内閣府消費者委員会の特定商取引法の規律の在り方についての答申に関する会長声明

内閣府消費者委員会は、2016年(平成28年)1月7日、内閣総理大臣に対し、特定商取引に関する法律の規律の在り方につき、答申(以下「本答申」という。)を行った。本答申は、同委員会特定商取引法専門調査会が昨年12月に取りまとめた「特定商取引法専門調査会報告書」(以下「本報告書」という。)の内容を踏まえ、法改正による対応が必要な事項については速やかに特定商取引に関する法律の改正法案を策定した上で国会に提出し、また、政省令の改正を行うなど、必要な取組を進めることが適当であるとする意見を述べたものである。


本報告書は、措置すべき具体的な事項として、①特定商取引法が適用される売買の対象となる権利を限定していた指定権利制を見直すこと、②事業者が消費者に対し支払いのために金融機関等に虚偽の申告をするよう唆したり、消費者の求めがない場合等に金融機関等に連れて行くなどの行為を行政庁による指示の対象とすること、③アポイントメント・セールス規制の範囲を拡大するとともに、来訪要請手段としてSNS・電子広告を用いた場合にも同規制が及ぶようにすること、④電話勧誘販売に過量販売解除権を導入すること、⑤美容医療契約を特定継続的役務と位置づけること、⑥特定商取引法に基づく業務停止命令を受けた事業者の役員等が新たに別の法人で同種の事業を行うこと等が禁止されるよう必要な法律上の措置を講じること、⑦立入検査の対象となる販売業者等と密接な関係を有する「密接関係者」の範囲を広げるため必要な政令改正を行うこと等を列挙した。本答申は、これらを踏まえ、法改正による対応が必要な事項については速やかに改正法案を策定する等必要な取組を進めることを答申しており、この点は高く評価できる。


もっとも、本報告書では訪問販売及び電話勧誘販売における事前拒否者への勧誘禁止制度の導入が見送られた。しかし、消費者庁による近時の調査では消費者の96%以上が訪問・電話勧誘を「全く受けたくない」と回答していること、私生活の平穏は守られるべき法益であること、同制度は事前に勧誘を拒否した者に対する営業活動についてのみの規制に過ぎず、事業者の営業の自由を不当に侵害するものではないこと、同制度は既に多くの諸外国で導入されていること等に鑑みれば、同制度は速やかに導入されるべきものである。また、本報告書で見送られたり引き続き検討を行うとされた他の事項(事業者が積極的な関与をして金銭借入れ・預金引出しを勧める行為に対する規制、通信販売における虚偽・誇大広告に関する取消権の付与、インターネットモール事業者に対する加盟店販売業者の実在性確認及び苦情対応の義務付け、複数の都道府県にまたがる被害事案で都道府県による行政処分のみでは不十分なケースについては国が行政処分を行うべきことの明確化等)についても、消費者被害の実情に照らしその対応を先延ばしすることは許されない。


よって、本報告書において措置すべきと指摘された事項については、本答申のとおり、迅速かつ確実に所定の措置(法律や政省令の改正)を講じるべきであり、本報告書においては見送られた上記事項についても、できるだけ早い時期に実効性ある法制度の確立に向けた検討が再開されるべきである。

 

 

2016年(平成28年)1月29日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進