内閣府消費者委員会の消費者契約法の規律の在り方についての答申に関する会長声明

内閣府消費者委員会は、2016年(平成28年)1月7日、内閣総理大臣に対し、消費者契約法(以下「本法」という。)の契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律の在り方につき答申(以下「本答申」という。)を行った。本答申は、同委員会消費者契約法専門調査会が昨年12月に取りまとめた「消費者契約法専門調査会報告書」(以下「本報告書」という。)の内容を踏まえ、現時点で法改正を行うべきとされた事項につき速やかに改正法案を策定した上で国会に提出し、解釈の明確化を図るべきとされた点につき逐条解説に適切に反映するなど必要な取組を進めることが適当とする意見を述べたものである。

 

当連合会は、2014年(平成26年)に消費者契約法日弁連改正試案(2014年版)を公表するなど、かねてより、現在の消費者契約被害の実情に適合した速やかな本法の見直しを提言していたところであり、今般、本答申において、一定の法改正の方向性が具体的に示されたことは評価できる。

 

とりわけ、過量契約(事業者から受ける物品、権利、役務等の給付がその日常生活において通常必要とされる分量、回数又は期間を著しく超える契約)という限定的な範囲に止まるとはいえ、加齢や認知症等により合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる不当な勧誘類型に消費者の取消権を導入することや、取消権の行使期間を伸長することなどが、速やかに法改正を行うべき事項として盛り込まれたことは、高齢化の進展に伴う消費者被害等の増加への対応が急務であることに照らし適切である。

 

また、消費者の不作為をもって契約の申込み又は承諾の意思表示を擬制する契約条項を、法10条前段の要件を満たす類型として例示し、これを無効とするなどの契約条項規制の改正が盛り込まれたことも、情報通信技術の発達に伴い多発する消費者被害等の予防・救済に資するものとして意義がある。

 

今般、これら速やかに法改正を行うべきとされた事項は、消費者被害の救済としては最低限の内容であることから、本答申の内容から後退させるような対応は許されず、本答申に基づき、確実かつ速やかな法改正を強く求めるものである。

 

しかし、本法制定時より多岐にわたる項目について見直しの必要性が指摘され、施行から15年もの長年にわたり内閣府や消費者庁等に設置された検討会等において十分な調査・検討と議論が積み重ねられてきたにもかかわらず、本報告書において、速やかに法改正を行うべきとされたのは、わずか6項目にすぎない。

 

本報告書において、今後の検討課題等とされた「勧誘」要件の在り方、不利益事実の不告知、困惑類型の追加、平均的な損害の額の立証責任、条項使用者不利の原則、不当条項類型の追加などについても、情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化による消費者契約被害が後を絶たない現状に照らし、これを先延ばしすることは到底認められない。

 

本答申でも指摘しているとおり、引き続き消費者委員会において更なる検討を加え、できるかぎり早い時期に答申を行うことができるよう、消費者庁及び国民生活センターにおける次の法改正に向けた積極的な取組が速やかに開始されるべきである。

 

 

2016年(平成28年)1月29日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進