犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律への対応に関する会長声明

2014年6月、マネー・ローンダリング対策を推進する政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)は、我が国に対して充分なマネー・ローンダリング対策を迅速に実施するよう声明を出した。これを受けて、「犯罪による収益の移転に関する法律」(以下「犯収法」という。)の一部が2014年11月19日に改正され、本年10月1日に施行される(以下「改正犯収法」という。)。

 

当連合会は、高度の自治権を持つ団体として、会員に対し、会規によって、依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等を義務付けてきた。改正犯収法により、他の士業者に適用される規定が変更されることから、当連合会は、2015年12月4日の臨時総会において「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」の一部改正を決議するとともに、本年1月22日の理事会において「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規則」の一部改正を決議した。具体的には、①依頼者の本人特定事項の確認は、写真付自然人本人確認書類以外はそれのみの提示では足りず、その他の補完手段を要すること、②外国の重要な公的地位にある者については二重の確認を義務付けること、③法人が依頼者の場合の代表者権限の確認方法を新設したこと、④本人特定事項の確認等を的確に行うための措置として法律事務所内の体制整備を義務付けること等、これまでの規制の強化を図った。新たな規程及び規則は、改正犯収法に定める内容を十分に満たす内容となっている。

 

なお、当連合会は、2007年の犯収法成立当時から、依頼者の疑わしい取引を通報する依頼者密告制度に反対する立場を堅持しており、改正犯収法の下でも弁護士は依頼者を通報する義務は負わない。他方で、弁護士がマネー・ローンダリングにいささかも加担することがあってはならないことは当然である。本規程では、弁護士がマネー・ローンダリングに関与したり利用されることがないように、依頼の目的が犯罪収益の移転にかかるものかどうか慎重に検討する義務、その目的が犯罪収益の移転にかかると知ったときはその目的の実現を回避するよう説得に努める義務を課している(本規程第6条ないし第8条)。これは犯収法にはない独自の規定であり、弁護士の職業的使命に鑑み、依頼者の本人特定事項の確認にとどまらず、犯罪による収益の移転防止のために積極的に働きかけるものである。

 

当連合会は、新たな規程及び規則を会員に周知徹底し、研修にも積極的に取り組み、弁護士がマネー・ローンダリングに関与したり利用されることがないよう、全力で取り組んでいく所存である。

 

 

 

2016年(平成28年)1月22日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進