軽減税率制度において個人番号カードを利用することに反対する会長声明

報道によれば、政府は、消費税を10パーセントに増税する際、購買時に個人番号カードを提示した市民に限って酒類を除く飲料・食料品という対象商品購入額の2パーセント相当額を還付する制度(以下「日本型軽減税率制度」という。)の導入を検討している。

 

しかし、日本型軽減税率制度において個人番号カードの提示を求めることは、以下のとおりプライバシーの観点から重大な問題をはらんでいると言わざるを得ない。

 

第1に、財務省案では、少なくとも対象製品について、消費者の購買履歴情報が軽減ポイント蓄積センター(仮称)に送付・蓄積されることが想定されている。市民の商品購入等の情報を国が把握できる制度を導入すれば、消費行動という限度にせよ、市民の私生活の監視につながりかねない。

 

第2に、当該制度の導入は、政府が市民に個人番号カードの取得を誘導し、日常的に携行することを事実上強制するものである。これは、同カードの取得・携行を義務付けていない「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆる「マイナンバー法」)の趣旨に逆行する。個人番号カードの表面には、本人の顔写真、戸籍上の氏名、生年月日、性別、住民票上の住所が、裏面には、生涯不変の個人番号が表記されており(これらを合わせて「特定個人情報」という。)、様々な行政事務の本人確認手続に使われる。これが第三者の手に渡ると、不正に利用される危険性がある。そのため、政府がホームページで「マイナンバーは、生涯にわたって利用する番号なので、忘失したり、漏えいしたりしないように大切に保管してください。」と説明しているのである。しかるに、個人番号カードの利用と還付を結び付けることは、政府が経済的な利益誘導により市民に個人番号カードの積極的な取得、日常的な携行、頻繁な利用を事実上強制することになる。それは個人番号カードの紛失や盗難等の機会を著しく増大させる。商品購入等の際、小売店に個人番号カードを提示させることは、特定個人情報が不正利用されたり流出したりする危険を著しく増大させる。

 

当連合会は、これまでプライバシー侵害の危険性などを理由にマイナンバー制度に反対してきたものであるが、日本型軽減税率制度において個人番号カードを利用することには、これまで以上に看過しがたいプライバシー侵害の危険を著しく増大させる問題があるため、そのような制度の導入には強く反対する。 

 

  2015年(平成27年)10月1日

日本弁護士連合会      

 会長 村 越   進