マイナンバー法の施行に関する会長声明
本年10月から、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「マイナンバー法」という。)に定める12桁の個人番号(以下「マイナンバー」という。)の通知が開始され、2016年1月から個人番号の利用等が開始される。
このマイナンバーは、他人と重複しない、原則生涯不変の個人識別番号であるため、これが漏えい等した場合は、個人情報の名寄せにおいて決定的な役割を果たしてしまうこととなり、プライバシーに対する危険性の高いものである。それゆえ、マイナンバー法は、マイナンバー付きの個人情報の取扱いを厳格に定め、違反に対しては個人情報保護法よりも重い刑罰を定めている。また、本年6月1日に公表された日本年金機構における約125万件に上る情報漏えい事件は、マイナンバー法に対する国民の危惧感を高めているところでもある。
一方で、マイナンバー法に関する周知と施行準備は、極めて遅れていると言わざるを得ない。
例えば、上記の日本年金機構の事件にかかる国の調査において、基幹系のネットワークとインターネットが切断されていない自治体が、本年8月18日時点で、未だ1割から2割あることが明らかとなった。これを受けて、山口俊一内閣府特命担当大臣が、マイナンバー制度の施行時点で、こうしたセキュリティー環境が整っていない自治体には、マイナンバーのネットワークに入ることはない旨の国会答弁を行っている。また、内閣官房「マイナンバー社会保障・税番号制度」のホームページに本年7月17日付けのお知らせとして掲載された民間企業の「マイナンバー対応状況に関する調査結果」(6月23日)においては、マイナンバーという「言葉を初めて聞いた」との回答が9.2%もあることが示すように、特に中小零細企業・個人事業主等において、遅々として準備が進んでいない状況にある。このように、マイナンバーがどのような事務に利用され、その取扱いにはどのような注意が必要であり、それゆえ、どのような対策と準備が必要であるかなどに関する周知は、全く不十分である。一定の準備を進めている法人等においても、外部任せであったり、形式的に規定やシステムを整えているに止まったりしている等、担当者に対する教育・訓練等が十分かつ適切になされていないことが多いとも言われている。
さらに、マイナンバーの通知を受ける国民・外国人住民については、本年8月9日に公表された読売新聞の世論調査において、マイナンバー制度を「知らない」又は「名称は知っているが、内容は知らない」と回答した人を合わせると52%にも上ることから分かるように、このマイナンバーがどのような目的で利用され、その管理にはどのような注意が必要であるのか、どのようなリスクがあるのかなどについての周知は決定的に不足していると言わなければならない。
その他、住民票所在地と実際の居所とが異なっているために、通知カードを受け取れない国民や外国人住民も相当数に達すると見込まれる問題も存在する。DV被害者等、やむを得ない理由により住民票住所地において通知カードを受け取ることができない人に対する居所情報登録に関する告知が、本年8月7日からようやく開始されたが、その申請期間は本年8月24日から同9月25日までと極めて短く、十分な周知がなされているとは言い難い。また、後見人による被後見人のマイナンバーの取扱いに関する事務の運用等、解決されていない実務上の諸問題も多い。
このような周知不足・準備不足の状況の中で、マイナンバーを通知し、各法人等でその番号の収集を開始することとなれば、番号の目的外収集や漏えい、当該制度に便乗した詐欺行為等、相当の社会的混乱を招来するおそれが極めて高いと言わざるを得ない。
当連合会は、現行のマイナンバー制度自体が、プライバシー等に対する高い危険性を有しているものであるとして強く反対してきたところである。現状での施行には大きな危惧があるため、本来ならば施行を延期すべきであるが、施行する以上は、上記の諸問題点について速やかに対策を取り、プライバシー等に対する懸念や実務上の問題点の早急な解消を求めるものである。
2015年(平成27年)9月9日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進