経済財政運営と改革の基本方針2015(社会保障改革部分)の見直しを求める会長声明

政府は、2015年6月24日、「経済財政運営と改革の基本方針2015」を閣議決定し(以下「骨太方針2015」という。)、これに基づき、2015年7月24日、「平成28年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(概算要求基準)を閣議了解した。

 

骨太方針2015は、「計画の基本的な考え方」として、骨太方針2014に続き、経済の成長に資するための財政運営という観点を明確に打ち出し、医療・介護、子育てなどの社会保障サービスを含む「公的サービスの産業化」を掲げる一方、「社会保障給付の増加を抑制することは個人や企業の保険料等の負担の増加を抑制することにほかならず、国民負担の増加の抑制は消費や投資の活性化を通じて経済成長にも寄与する」としている。

 

そして、社会保障については「自助を基本に公助・共助を適切に組み合わせた持続可能な国民皆保険」、「経済成長と両立する社会保障制度」等の基本理念に基づいて、社会保障関係費の実質的な増加を3年間で1.5兆円とし、このペースを2018年度(平成30年度)まで継続していくことを目安としている。概算要求基準も同内容の目安を定めており、2015年度当初予算と比べ、年間6700億円の増額に抑えるとしているが、財務省は最終的に年間5000億円程度に抑える方針とされている。社会保障費の自然増は、過去3年間でも年間8000億から1兆円であることから(参議院厚生労働委員会での厚生労働大臣答弁)、今後、年間3000億円から5000億円もの社会保障費が削減され、医療、介護、年金、生活保護等幅広い分野で、さらなる給付削減、自己負担増等が進められようとしている。

 

しかし、憲法25条及び13条において、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利は人権として保障されており、その向上及び増進は国の責務として位置付けられている。生存権の保障は優先的な国家目標であるべきであり、財源不足を理由として必要な社会保障費を制限することは許されない(当連合会2011年10月7日付け「希望社会の実現のため、社会保障のグランドデザイン策定を求める決議」、2013年11月21日付け「社会保障制度改革国民会議報告書に基づき進められる社会保障制度改革の基本的な考え方に反対する意見書」(以下「意見書等」という。))。骨太方針2015は、「社会保障給付の増加を抑制すること」が「経済成長にも寄与する」ことになるというが、これは、経済成長を優先するあまり、人の生存と尊厳を蔑ろにするもので本末転倒である。社会の安定と経済の発展のためには、国民が健康で文化的な生活を営む権利を充実させることが必要不可欠である。OECD調査では、所得格差が拡大すると経済成長は低下すると報告されている。

 

また、社会保障に関する国の責務を「自助」に矮小化し、社会保障サービスを「産業化」することは、憲法25条1項で、すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障し、同条2項で、そのために、国に対し、社会保障を増進する責務を課していることに反するものであり、「自助」を過度に強調して、必要な社会保障に関する国の責務を後退させることがあってはならない(意見書等)。

しかも、日本の相対的貧困率は、現在、過去最悪の水準にまで悪化している(厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査の概況」)。かつて小泉内閣の下において、社会保障費が自然増に対して毎年2200億円削減されたが、骨太方針2015の削減額は、それを大きく上回るものであり、貧困と格差の拡大に一層拍車をかけるものであるといわざるを得ない。

 

一方で、「社会保障制度を維持するため、消費税率の10%への引上げを平成29年4月に実施する」として、社会保障制度の主要な財源を消費税に求めている点については、生存権を人権として保障し社会保障制度の確立を求める憲法において当然に予定されている所得の再分配、憲法13条、14条、25条などから要請される所得に応じて租税を負担する応能負担の原則から極めて問題である(意見書等)。

 

応能負担の原則を徹底し、実質的に平等かつ公正な税制によって必要な税収を確保しつつ、社会保障制度を充実させ、所得再分配機能を強化することによって、貧困と格差の拡大を是正し、すべての人が人間らしく生きることができる社会の構築こそが、今、求められている。

 

よって、当連合会は、骨太方針2015(社会保障改革部分)により社会保障給付がさらに削減されようとしていることに対し、その見直しを強く求める。

  2015年(平成27年)8月28日

日本弁護士連合会      

 会長 村 越   進