「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書に関する会長談話

法務省の性犯罪の罰則に関する検討会は、12回にわたる会合を通じた議論の結果を取りまとめて公表した。


本検討会では、性犯罪の法定刑の見直し、強姦罪における暴行脅迫要件の緩和、いわゆる性交同意年齢の引上げ、性犯罪の非親告罪化、性犯罪に関する公訴時効の撤廃又は停止など現行法の見直しのほか、強姦罪の主体等の拡大、性交類似行為の処罰規定や地位・関係性を利用した性的行為の処罰規定の創設など新たな犯罪構成要件を定めることなど、多岐にわたる論点について議論がなされた。


強姦罪等の性犯罪は、被害者に多大なる肉体的及び精神的なダメージを与え、被害者の人格や尊厳を著しく侵害する犯罪である。性犯罪の加害者を適切に処罰することは、一般予防の見地からも特別予防の見地からも重要である。また、性犯罪事件においては被害者が性的プライバシーに関わる事実の供述を求められるなど、刑事手続における被害者の負担が大きいことから、被害者の負担を可能な限り軽減する方策の検討も重要である。さらに、子どもを含む性犯罪被害者の泣き寝入りを防ぐ取組や精神的ケアも今後の課題である。


性犯罪の被害は埋もれがちであり、被害救済も容易でない。今後、制度改正を検討していくに当たっては、その特殊性を考慮し、被害の実態から目を背けることなく、刑罰法規も含め適切な制度が構築されるべきである。


他方で、刑罰が国家による強制力の行使であるという点から刑罰法規の制定や改定は謙抑的でなければならず、罪刑法定主義の観点からあらゆる犯罪構成要件は、できる限り明確に、特定性に欠けることなく定められなければならない。また、刑罰法規の改正に当たっては、立法事実を十分に検討すべきである。


本検討会では、性犯罪の被害をなくしていくためには、罰則の改正を進めるだけではなく、治療を含めた再犯防止のための施策など総合的な対策が必要であることも指摘された。性犯罪を生み出さない社会を目指すという広い視野に立ち、治療や処遇の在り方を検討する必要がある。


犯罪被害者の権利と被疑者・被告人の権利は対立する場面があることは否定できない。しかし、いずれの権利も国民の人権として尊重されるべきものであり、その擁護は弁護士の責務である。当連合会は、行刑の在り方、被害者支援の在り方、司法制度における両性の平等の実現等についても多角的に検討してきたが、これらの検討の成果と刑事法の基本原則を踏まえつつ、今後とも、性犯罪をめぐる課題について真摯に取り組んでいく所存である。

 

 

  2015年(平成27年)8月7日

日本弁護士連合会      

 会長 村 越   進