面会室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の東京高裁判決についての会長談話
本年7月9日、東京高等裁判所第2民事部は、拘置所職員が、弁護人が被告人を写真撮影した行為を制止し、接見を中止させた行為について、国に損害賠償を求めたいわゆる竹内国家賠償請求訴訟の控訴審で、原告一部勝訴の原判決を取り消し、請求をすべて棄却するとの判決を言い渡した。
当連合会は、刑事施設、留置施設、鑑別所が、撮影機能を持つ機器及び録音機能を持つ機器の持込み並びに面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音を禁止したり、上記行為による録音又は写真撮影画像(録画を含む)の内容を検査したりすることは、弁護人の秘密交通権及び正当な弁護活動を侵害するものであることから、これらの行為をしないよう求めているところである(2011年1月20日付け「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書」、2013年9月2日付け申入書)。
本件は、東京拘置所の面会室内において、接見中に被告人の健康状態の異常に気づいた弁護人が、弁護活動の一環として証拠保全目的で被告人を写真撮影したところ、拘置所職員から写真撮影行為を制止され、接見を中止させられたものであって、正に接見交通権や正当な弁護活動の侵害である。
原判決は、接見交通権が憲法の保障に由来する権利であることを踏まえ、弁護人の接見を中止することができるのは、具体的事情の下、未決拘禁者の逃亡、罪証隠滅、その他の刑事施設の設置目的に反するおそれが生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限られると判示し、弁護人の撮影行為によってこれらのおそれが生ずる相当の蓋然性があるとは認められないとして、国に10万円の損害賠償を認めていた。
しかし、本判決は、「接見」という文言が「面会」と同義に解されること、刑事訴訟法制定当時にカメラやビデオ等の撮影機器が普及しておらず、弁護人による写真撮影・動画撮影が想定されていなかったことなどを理由に、写真撮影等は弁護活動に必要なコミュニケーションとしての接見として保障されるものではなく、証拠保全は刑事訴訟法179条によればよいとして、原判決のように逃亡や罪証隠滅等の蓋然性を検討するまでもなく、単に刑事施設が定めた規律侵害行為があれば接見を中断でき、写真撮影の制止行為や接見中止措置は弁護活動を不当に制約しないと判示した。
弁護人は、身体拘束下に置かれている被疑者・被告人の刑事手続上の権利を全うするために、刑事訴訟法の許す範囲でできる限りの活動をする弁護権を有している。そして、撮影や録音は被疑者等の言い分の確保をはじめとする確実な証拠保全のための弁護人等のメモやスケッチの作成等に準じるものであり、正に接見交通に不可欠な手段であって、当然に秘密交通権の保障が及ぶものである(前掲申入書)。いわゆる後藤国賠控訴審判決(大阪高等裁判所2005年1月25日)は、接見は口頭での意思連絡に限定されないことを判示しており、弁護人が弁護活動の一環として面会室内で行った撮影行為を、具体的な支障もないのに中止することは許されないと解すべきであるから、本判決の判断は極めて不当である。
加えて、本判決が刑事訴訟法制定当時は写真撮影等が想定されておらず、法制定当時想定されていなければ権利の内容として認められないとするが、権利の内容は、技術の進歩に伴い変化し、また豊かになるべきものである。施設管理の方法も技術も変化してきているのであり、法制定当時の事情に拘泥して、時代の変化や実務の現状を無視して、接見交通権によって保障される権利を限定的に解釈することは、接見交通権が憲法に由来することを否定するに等しい。
本判決により、刑事弁護を担う弁護士が、面会室内における被疑者・被告人の言動を記録化し、将来の訴訟行為や防禦活動に役立てようとする弁護活動が規制されることが常態化し、弁護人が困惑したり、弁護活動を自制したりすることが危惧される。
当連合会は、弁護活動の一環としての面会室内の写真撮影等の行為について、収容施設等が禁止したり、検査したりすることがないよう改めて求めるものである。
2015年(平成27年)7月27日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進