報道の自由を尊重することを求める会長声明

 

憲法21条は、市民の表現の自由を保障するが、これは、自由な言論の場を通じて主権者たる国民による民主政治を実現することを目指す日本国憲法の基本理念に基づくものである。このため、表現の自由には、市民が情報を自由に発信することだけでなく、情報を自由に受領すること、すなわち知る権利も含まれる。さらには、知る権利を確保するための前提である報道機関の報道の自由もまた厚く保障されている。国が不当に報道の自由を侵害してはならないことは勿論であるが、政府に対して直接・間接の影響力を持つ存在である政党や国会議員も、報道の自由を尊重すべきであり、自由な報道活動を抑圧したり萎縮させるような言動をすることは許されない。


ところが、最近、国会議員や政党が、報道の自由を尊重せず、報道を萎縮させて自由な報道活動を阻害しかねない事案を生じさせている。


その第1は、自由民主党(以下「自民党」という。)の情報通信戦略調査会が、本年4月17日、日本放送協会(NHK)の情報番組における「やらせ」疑惑報道、及びテレビ朝日の報道番組における元官僚による「官邸からバッシングを受けてきた」旨の発言について、両放送事業者の幹部を呼んで事情を聴取したことである。同党は、これらの事情聴取を、放送法4条1項3号の「放送は事実をまげないですること」との規定を理由に行ったとしている。


しかし、報道の担い手である放送事業者について規定した放送法は、憲法21条を受けて「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(同法1条2号)等を目的に掲げ、そのために、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」(同法3条)と規定して、法律上の権限による場合以外には、放送事業者の編集の自由を保障して他者からの干渉を認めていない。


上記の放送法4条1項3号の規定は、こうした放送法の目的や趣旨に照らして、一般には放送事業者の自律によって遵守されるべきものであって、政府による干渉は極力避けなければならないと解されている。今回のように、政党が、特定の放送内容を捉えて事情聴取を行うことは、政党が、国会・政府に対する影響力を行使して、その放送事業者の放送内容について恣意的干渉を行うのではないかとの危惧を生じさせるものであり、その放送事業者の報道内容についての萎縮を招きかねない。かかる事情聴取は、同法4条1項3号によっても正当化されるものではなく、放送事業者の報道の自由を尊重する放送法の趣旨に反しているというべきである。


その第2は、本年6月25日、自民党の議員37名が参加する「文化芸術懇話会」の会合において、出席議員から、今国会に上程された安全保障法案を批判する報道に関して、「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」との発言があったことである。


この発言は、政権与党に批判的な報道内容を、経済的圧力によって封じ込めることを意図するものであり、冒頭で述べたとおり、憲法21条によって表現の自由を保障し、自由な言論の場を通じて民主政治を実現することを目指す日本国憲法の基本理念にもとるものである。有志の勉強会とはいえ、政府に対して直接・間接の影響力を持つ存在である政党の議員が多数集まる場での発言は、それ自体が報道機関の萎縮を招くおそれがあり、到底容認できない。


当連合会は、国会議員及び政党に対して、報道機関の自律及び報道の自由を尊重し、今後、本件のような聴取や発言を行わないことを求めると共に、報道機関に対しては、これらの行為に萎縮することなく自らの放送の自由を全うすることを求めるものである。

 

 

 

2015年(平成27年)7月24日

        日本弁護士連合会

       会長 村 越   進