避難指示の解除、慰謝料支払の打切りに反対する会長声明
政府は、2015年6月12日、福島復興加速化指針を改訂し、福島県の居住制限区域と避難指示解除準備区域について、避難指示を遅くとも2017年3月までに解除するとの目標を定めた。両区域の原発事故前の人口は約54、800人であり、避難指示区域全体の7割を占める。
また、上記時期までに両区域の避難指示を解除することを前提に、避難指示区域からの避難者に東京電力が支払っている慰謝料について、解除の時期にかかわらず2018年3月分まで支払うよう東京電力を指導することを決めた。
しかし、避難指示をいつ解除するかについては、避難指示区域とされている各市町村の実情に応じて判断していくべき事柄であり、上記解除の目標が当該地域の実情を無視して、一律に期限を区切るものであるとすれば、相当でない。
当連合会は、住民の健康を守るためには、予防原則を貫徹し、避難指示解除は、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から慎重に行うべきであるとの意見を述べてきた(2013年10月4日付け「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」)。
政府の原子力災害対策本部が2011年12月26日付けで示した「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」においても、避難指示の解除については、①年間積算線量が20ミリシーベルト以下となること、②日常生活に必須なインフラや、医療・介護などの生活関連サービスがおおむね復旧し、除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議を踏まえること、の3点を要件として挙げていた。また、解除に当たっては、地域の実情を十分に考慮する必要があることから、一律の取扱いとはせずに、関係市町村が最も適当と考える時期に解除することも可能とするとしていた。
両区域の実情を見るに、①除染が未だ進捗していない、②除染後も高い放射線量が測定されている、③インフラや生活関連サービスの復旧の見通しが立っていない、④建築業者の人手不足のため、元の自宅の改修や建て替えをしようにも着工の見通しが立たないなど、あと2年弱で避難指示の解除や帰還の前提が整うとは考え難い地域が多く見られる。
避難指示が解除されたからといって、わずか1年間で被害者が元の生活に戻れるものではない。
よって、当連合会は、政府に対し、避難指示の解除については、各地域の実情を十分踏まえ、地元や対象住民との協議も十分行った上で、個別に慎重に判断すること、一律に2017年3月までに解除すると期限を区切らないことを求める。
また、政府及び東京電力に対し、被害者の被害の実情を十分に踏まえ、避難指示区域からの避難者に対する慰謝料の支払を一律に2018年3月分までで打ち切ることのないよう求める。
2015年(平成27年)7月3日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進