区域外避難者への避難先住宅無償提供の終了に反対する会長声明
福島第一原子力発電所事故後、避難指示を受けずに避難した区域外避難者に対する避難先住宅の無償提供について、福島県が2016年度で終える方向で市町村と協議しているとの報道がなされた(2015年5月17日付け朝日新聞、同21日付け読売新聞、同26日付け毎日新聞)。
当連合会は、復旧復興の主体は被災者・原発事故被害者であり、復旧・復興が憲法の保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」であるとの認識の下、支援活動を継続してきた。すなわち、区域の内外を問わず事故以降1年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルトを超えることが推定される地域の住民には避難の権利を認めて必要な支援を求めるとともに(2013年10月4日付け「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」)、原発事故による避難者に対する住宅提供の期間について1年ごとに延長する現在の災害救助法に基づく支援自体を改めて、これを相当長期化させ、避難者の意向や生活実態に応じて更新する制度等の立法措置を求めてきた(2014年7月17日付け「原発事故避難者への仮設住宅等の供与に関する新たな立法措置を求める意見書」)。
仮に、区域外避難者への避難先住宅の無償提供を2016年度で一律に打ち切るとするのであれば、到底看過することはできない。
福島県が2015年4月27日に発表した最新の避難者意向調査によれば、区域外避難者の58.8%が応急仮設住宅での避難生活を余儀なくされており、46.5%が入居期間の延長を求めている(前年度から2.5%増)。延長を求める理由として、58.3%が「生活資金の不安」を、56%が「放射線の影響に不安」をあげ、「よく眠れない」「何事も以前より楽しめなくなった」という心身の不調を訴える回答も増加している。
区域外避難者は損害賠償においても厳しい立場に置かれていることを踏まえれば、本来、上記の意向調査に基づき区域外避難者の実情に応じた追加の支援策が図られるべきであるが、区域外避難者への住宅無償提供の費用が国から東京電力に求償されていないと報道される(2015年4月4日付け毎日新聞)など、区域外避難者は、賠償と支援策の両面で厳しい状況に置かれている。
このような状況下で、国や福島県が、2016年度で避難先住宅の無償提供を終えるとすれば、避難生活を余儀なくされた被害者に対し間接的に帰還又は移住を強制する結果となりかねず、とりわけ区域外避難者に対する一人ひとりの避難・滞在・帰還のいずれの選択も尊重する人間の復興の理念に真っ向から反するおそれがある。
したがって、当連合会は、福島県に対し、区域外避難者への避難先住宅無償提供を2016年度で打ち切る方針を撤回し、長期の住宅提供期間延長を求めるとともに、政府に対し、上記延長による費用を東京電力に求償する(子ども被災者支援法第19条)ことで国庫負担を継続し、災害救助法に基づく支援を改め、被災者の意向や生活実態に応じて更新する制度の立法措置を講ずるよう、重ねて求める。
2015年(平成27年)5月28日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進