法曹養成制度改革推進室作成の法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ案)に関する会長声明

内閣官房法曹養成制度改革推進室は、本年5月21日、法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ案)(以下、「本取りまとめ案」という。)を取りまとめ、法曹養成制度改革顧問会議に提出した。

 

法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度は、社会の幅広い領域で法の支配の理念を具体化し国民の権利を擁護するという司法制度改革の理念を実現すべく、質・量ともに豊かな法曹の輩出を目指し、2004(平成16)年にスタートした。

 

しかしながら、この間、新たな制度の下で多くの新規法曹が生まれ様々な分野で活躍する一方、当初の想定と異なる司法試験合格率の低迷と司法修習終了後の新規法曹の厳しい就業状況が続き、法曹養成課程の経済的・時間的負担も相まって、法曹志願者は毎年大幅な減少を続け、法科大学院の入学者数も、2006(平成18)年度に5,784人を数えた以降は毎年減少を続け、本年度は過去最低の2,201人となっている。

 

このような状況が続く中で、政府における検討が開始されてから5年を経過した今日、本取りまとめ案が、当面の司法試験合格者数について、「1,500人程度」とし必要な取組を進めるとしたことは、この間の各方面の真摯な議論と検討を踏まえたものとして、理解されるべきものである。なお、本取りまとめ案も指摘するように、かかる司法試験合格者数に関する提言は、法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことは、言うまでもない。

 

しかしながら、他方で、本取りまとめ案には、これまで司法試験合格者を毎年1,800人ないし2,100人程度の規模で輩出してきたことについて「一定の相当性」があるとし、また、「直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ」るとするなど、1,500人程度を上回る規模の司法試験合格者数をも視野に入れたかのような記述も含まれている。

 

前述した法曹養成制度の深刻な状況と、この間の法曹志望者減少の推移を踏まえると、当面の司法試験合格者数について1,500人程度を上回る規模とすることは、現実的な基盤を欠き、現状に対する危機感を欠如したものと言わざるを得ない。また、法曹志望者の減少をもたらした要因を解消する実効的な措置を講ずることなく、ことさらに司法試験合格者の数を追い求めるならば、新規法曹の一部に質の低下をもたらすばかりか、法曹養成制度の意義や機能、ひいては制度に対する社会的な信頼を損なう事態を招来しかねない。

 

以上を踏まえ、当連合会は、関係各所に対し、より多くの有為な人材が希望をもって法曹を志願する状況が回復されるよう、法曹養成制度を巡る諸課題を克服すべく必要な措置を取るとともに、司法試験合格者数について、すみやかに1,500人とするよう、改めて強く要請するものである。

 

また、法曹人口を含む法曹養成制度の在り方を検討するにあたっては、社会における法的需要や法曹の活動領域の拡大状況、法曹養成制度の成熟度合いや輩出される法曹の質、わが国社会の司法基盤の整備状況や司法アクセスの改善状況を初めとする諸種の司法制度改革の進捗状況等の検証が不可欠である。

 

したがって、今後も、関係各機関は、協力してそうした検証を継続し、また法曹人口を含む法曹養成制度の在り方について見直しを含む検討を適時行い、必要な措置を取るべきである。

 

当連合会は、司法制度の一翼を担う立場から、今後も関係各所と協力し、法曹が社会の様々な分野で活躍し国民の権利・利益・自由の確保に貢献できるよう、法曹養成制度改革を進めるとともに、司法基盤の整備、司法アクセスの改善、法曹の活動領域の拡大等を推進し、あわせて、司法修習生及び若手法曹への支援に向けた取組に全力を尽くす決意である。

 

 

  2015年(平成27年)5月21日

日本弁護士連合会      

 会長 村 越   進