「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」に対する会長声明

政府は、本年3月6日、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。


本法案は、現行の技能実習期間が、第1号の技能実習として1年、続いて実施される第2号の技能実習として2年の合計3年を上限とされているところ、更に2年を上限として実習期間を延長する第3号の技能実習を制度化した。


他方で、技能等の適正な実施及び技能実習生の保護を図るための方策として、監理団体を主務大臣による許可制とし、技能実習生ごとに作成され、主務大臣が認定した技能実習計画に従った実習の実施、実習開始に伴う届出や報告などを実習実施者に義務付け、これらの方策の運営を担うものとして、新たに外国人技能実習機構を設立することとした。また、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、技能実習を強制するといった人権侵害行為、技能実習契約の不履行に関する違約金等の予定、強制的な預金の管理等を禁止し、かかる行為に対して、刑罰を科すこと等を定めた。


当連合会は、外国人技能実習制度について、外国人による技能の習得を通じた日本の技術の海外移転を制度の目的としながら、実態は非熟練労働力不足解消のための制度として運用されているという制度目的と実態の乖離や、名目上の制度目的ゆえに、技能実習生には職場移転の自由が認められず、対等な労使関係の構築が困難となっている構造上の問題点を指摘し、同制度の廃止を繰り返し訴えてきた。


本法案は、監督の強化策や人権侵害等の予防や保護のための規定を盛り込んではいるものの、技能実習制度が抱える前述の構造的な問題は放置したままであり、また、送出し機関による保証金や、罰金の徴収等に対しては、何ら対策がなされていない。構造的な問題に触れないままに行う監督の強化策によっても、完全に対等な労使関係を構築することはできず、被害に遭った技能実習生が自ら保護を求めて改善や救済を求めることも依然として困難である。したがって、外国人技能実習制度の存続を前提として、実習期間の延長を認める本法案は、到底容認できない。


仮に、外国人技能実習制度を当面存続させるとしても、「技能実習制度の見直しに関する法務省・厚生労働省 合同有識者懇談会」報告書(以下「有識者懇談会報告書」という。)も踏まえ、本法案には、以下の修正等が必要である。


1 有識者懇談会報告書では、技能実習3号移行の際に、技能実習生による実習先の選択を可能とすることが提案されていたが、法案ではこの点が明らかにされていない。この点、法案において明確にこれを認めるべきである。


2 有識者懇談会報告書では、送出し機関の適正化のため、送出し国による送出し機関の認定、調査や指導監督等に関して送出し国との政府(当局)間取決めを作成することが提案されていたが、法案ではこの点が明らかにされていない。送出し機関に保証金の徴収などの不適正な行為があったときは、当該機関からの送出しを停止することを義務付けるなどの内容を盛り込んだ政府(当局)間取決めを締結し、その取決めを締結したことを当該国からの受入れの条件とすることを法案において明確にするべきである。


3 技能実習生に対して、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、送出し国への帰国を強制する事例(以下「強制帰国」という。)が報告されており、法案に、強制帰国を禁止する旨を規定するべきである。


4 主務大臣への申告や外国人技能実習機構に対する相談があった場合、技能実習生の保護及び救済のためには、同機構の対応のみでは不十分であり、日本司法支援センター(法テラス)や弁護士会、外国人技能実習生の支援活動に実績のあるNGOなどに相談等の業務の一部を委託することを明記するべきである。

 

なお、本法案28条2項は、監理団体が、主務省令で定める適正な種類及び額の監理費を実習実施者から徴収することを認めているが、この監理費は、監理事業に最低限必要な経費に限定して認められるべきであり、監理団体役員の不当に高い報酬や接待費などに当てられるものであってはならない。このことを国会審議において明らかにした上で、厳格に運営をすべきである。

 

また、当連合会は、国に対して、改めて、外国人技能実習生制度を直ちに廃止し、外国人の非熟練労働者の受入れについては、労働者に対する人権侵害を生じさせる構造的問題を克服した、新たな労働者受入れ制度の検討を開始することを求める。



 

2015年(平成27年)4月24日

        日本弁護士連合会

        会長 村 越   進