生活保護の住宅扶助基準、冬季加算の引下げの撤回を求める会長声明

厚生労働省は、2015年1月15日、2015年度から生活保護の住宅扶助基準と冬季加算を引き下げるとの方針を発表し、同年3月9日、同省社会・援護局関係主管課長会議において、その具体的指針を現場に示した。


生活保護基準は、我が国における「健康で文化的な最低限度の生活」の水準を具体化した、いわゆるナショナル・ミニマムである。生活保護の住宅扶助基準と冬季加算の引下げは、生活保護利用者の健康や生命にも重大な影響を及ぼすものであるので、当連合会は、反対の意見を繰り返し表明してきたところである。


本来、住宅扶助基準は、住生活基本法に基づく住生活基本計画が定める「最低居住面積水準(健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積に関する水準)」を満たす住宅を借りることができるものでなければならない。厚生労働省の社会保障審議会生活保護基準部会は2015年1月9日に報告書(以下「報告書」という。)を取りまとめているが、報告書では、生活保護利用世帯の最低居住面積水準の達成率が一般世帯を大きく下回っていることから、より適切な住環境を確保する方策を求めていた。しかし、厚生労働省は、家賃物価の動向(全国平均△2.1%)を反映させるなどとして、従来の算定方式を採らず、生活保護利用世帯について最低居住面積水準の達成を放棄する姿勢を明確にした。


また、2人世帯の住宅扶助は単身世帯の1.3倍とされていたところを、厚生労働省の今回の方針では1.2倍に引き下げるなどしたため、単身世帯の住宅扶助基準が引き下げられた地域では、これに上記の低減した倍率を乗じることによって、複数世帯の基準が大きく引き下げられる結果となった。


この住宅扶助基準引下げによって、生活費を切り詰めたり、家賃滞納で住宅の明け渡しを求められる等の事態が発生し、特に子どものいる多人数世帯の生活の場が不安定な状態に置かれることが懸念される。


一方、冬季加算とは、冬季に暖房費などが必要となるため、11月から3月まで、生活扶助基準に加えて、地域別、世帯人数別に定められた額を支給するものである。報告書でも、「一般低所得世帯における生活扶助相当支出額の冬季増加分と冬季加算を単純に相対比較するのではなく、冬季に(略)増加する支出が、冬季加算額によって賄えるか」を検証する必要があるとされており、また豪雪地帯や山間部地域についての検証も不十分であると指摘されていた。しかしながら厚生労働省の方針は、その検証をしないまま、年間収入下位10%の「一般低所得世帯における冬季に増加する光熱費の実態を反映」させるなどとして、ほとんどの地域・世帯において冬季加算額を引き下げることを決めた。生活保護基準以下の生活を強いられている者を含む、年間収入下位10%層の消費実態を比較対象とすることは失当であって、寒冷地における命綱ともいえる冬季加算を引き下げることは許されない。


以上のとおり、今回の住宅扶助基準と冬季加算の引下げは、生活保護基準部会の専門的知見との整合性を欠く点などにおいて、厚生労働大臣の裁量権を逸脱・濫用し(生活保護法8条2項)、憲法25条が保障する生存権を侵害するものであるから、当連合会は、政府がこれらの引下げを撤回するよう強く求める。

 

 

 

2015年(平成27年)3月26日

        日本弁護士連合会

       会長 村 越   進