公労使三者構成の原則に則った労働政策の審議を求める会長声明

 

2015年2月13日、厚生労働省労働政策審議会(以下「労政審」という。)は、「今後の労働時間法制等の在り方について」との建議をとりまとめた。この建議は、「高度プロフェッショナル労働制」と称する、職務の内容や年収の要件を満たした労働者につき労働時間規制の適用除外とする制度の創設や、裁量労働制及びフレックスタイム制の規制緩和などを内容とする。この建議を受けて、労働基準法改正案が本年の通常国会において提出される予定である。

 

上記建議が検討された労政審労働条件分科会においては、労働者委員から「長時間労働を誘発する懸念が払拭できない」など、新制度に反対する意見が繰り返し述べられていた。しかし、こうした労働者側の意見は反映されないまま、2015年1月16日に厚生労働省が発表した骨子案に沿った建議がなされたものである。公益委員案として作成された骨子案に沿って2014年1月29日に労政審労働力需給制度部会が建議した「労働者派遣制度の改正について」と同様の経緯をたどっている。

 

労働者委員の意見が反映されない建議が連続する背景には、労政審で審議されるよりも前に、労働時間法制及び労働者派遣制度の見直しの内容と時期が盛り込まれた「日本再興戦略」及び「規制改革実施計画」が、政府の政策方針として閣議決定されているという問題がある。雇用政策を含む重点政策については、政府の諮問機関である産業競争力会議や規制改革会議で議論されているが、その構成員には大企業経営者や労働者派遣事業経営者など使用者側の利益から発言する者が多く含まれている一方で、労働者側の利益を代弁する者は一人もいない。つまり、使用者側の意見のみが反映された政策方針が先立って閣議決定されていることで、労政審において労働者委員が反対意見を述べても、反映されないという状況が続いている。

 

ILO第144号条約及び第152号勧告は、労働分野の法律改正等については、政府委員・労働者委員・使用者委員の三者構成による効果的な協議を経て行うことを求めている。しかし、労働時間法制や労働者派遣法のように、我が国の労働法制の根幹をなす法制度の審議に関し、上記のような状況で建議がなされるならば、事実上ILOの要求する効果的な三者協議は骨抜きにされており、産業競争力会議や規制改革会議での審議自体がILOの要求に反している。

 

当連合会は、2013年7月18日付け「『日本再興戦略』に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書」において、「規制改革会議や産業競争力会議は、資本家・企業経営者とごく一部の学者のみで構成されており、労働者を代表する者がまったく含まれていない。このような偏った構成で雇用規制の緩和を議論すること自体が不公正であり、ILOが労働立法の根本原理として推奨している政府・労働者・使用者の三者構成主義にも反する。」との意見を述べている。

 

当連合会は、公労使三者構成の原則を形骸化する現在の労働政策の審議のあり方に反対するとともに、政府に対し、公労使三者構成の原則に則った公正な審議を求める。

 

2015年(平成27年)2月27日

        日本弁護士連合会

       会長 村 越   進