接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟判決についての会長談話
本年2月26日、福岡地方裁判所小倉支部第3民事部は、接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟について、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。同訴訟は、当時弁護人であった原告が、小倉拘置支所の接見室内で被告人と面会した際、被告人から、拘置支所職員から暴行を受け、顔面を負傷したとの訴えを受け、負傷状況を証拠化する目的で、携帯電話のカメラ機能を用いて写真撮影したところ、拘置支所職員から「画像を消去しなければ帰すことはできない」などと言われ、撮影した画像を削除させられたことは接見交通権を侵害するとして国家賠償を求めていた事案で、判決は接見を弁護人等と被疑者等との意思疎通に限定するなど、接見交通権の意義について全く理解を示さない極めて不当なものであると言わざるを得ない。
しかも判決は、弁護人と被告人等との面会の場面における拘置所の措置は、逃亡又は罪証隠滅並びに刑事施設の適正な規律及び秩序の維持に支障を及ぼす具体的なおそれのある行為をいうものと解するのが相当としながら、本件における通信・撮影機器の持込みが前記の具体的なおそれのある行為であるかどうかについて何ら検討することなく、拘置所の措置を漫然と刑事施設の適正な規律及び秩序の維持のため必要かつ合理的な措置であると認定している。
いうまでもなく、憲法及び刑事訴訟法39条1項の保障する秘密接見交通権は、身体を拘束された被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)が弁護人からの助言を受け、有効な防御権を行使するための不可欠な権利である。
この秘密接見交通権の意義に照らせば、接見の際に得られた情報を記録化することも接見の一環であり、接見時における写真撮影は、接見時の被疑者等に関する情報の取得・記録行為にほかならず、その意味で接見時にメモを作成することと本質的な差異はない。接見で得た情報の記録化を否定することは、情報の取得行為を否定することにも等しく、被疑者等の弁護人依頼権という憲法上の権利をも危うくしかねないものである。実務上も被疑者等との接見の際に写真撮影や録音・録画が行えなければ、接見における情報収集及び記録化を前提とする公判廷等への顕出が極めて制限される結果となり、被疑者等や弁護人の防御権は大きく制約されることとなる。ましてや、接見室への通信・撮影機器の持込みを一律に禁止することには何ら合理性はないと言うべきである。
当連合会は、2011年1月20日付け「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書」において、弁護人が被疑者等との接見の際に「面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって、接見・秘密交通権で保障されており、制限なく認められるものであり、刑事施設、留置施設もしくは鑑別所が、制限することや検査することは認められない」との意見を表明し、また、2013年には、弁護人と被疑者等との接見の際に「当該弁護人等に対し、撮影機能を持つ機器及び録音機能を持つ機器の持込み並びに面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音を禁止したり、上記行為による録音又は写真撮影画像(録画を含む)の内容を検査したりすることがないよう求める」申入書を法務大臣、国家公安委員長、警察庁長官宛てに提出しているところであるが、改めて面会室での写真撮影や録音が秘密接見交通権の保障を受けるべきことを表明するものである。
2015年(平成27年)2月26日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進