大崎事件第2次再審請求特別抗告棄却決定についての会長声明

 

最高裁判所第一小法廷(金築誠志裁判長)は、本年2月2日、いわゆる大崎事件第2次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏)の特別抗告審につき、特別抗告を棄却する旨決定した(以下「本決定」という。)。


本事件について、原口氏は一貫して無罪を主張し、原口氏と犯行を結び付ける客観的証拠はほとんどなかったにもかかわらず、「共犯者」とされた原口氏の元夫、義弟、甥の3人の自白によって、殺人と死体遺棄で懲役10年の有罪判決を受けた。


原口氏は、満期服役後、鹿児島地方裁判所に対し、1995年(平成7年)に第1次再審請求を申し立て、2002年(平成14年)3月26日、再審開始決定が出された。しかし即時抗告審において、福岡高等裁判所宮崎支部は再審開始決定を取り消した上、再審請求を棄却し、原口氏の最高裁判所に対する特別抗告も棄却された。


第2次再審請求審で、鹿児島地方裁判所は、証拠開示に向けた訴訟指揮を一切行わないまま、2013年(平成25年)3月、再審請求を棄却した。


その即時抗告審においては、当連合会も本事件の支援を開始し、事件発生後34年間開示されることなく、検察官も不見当としていた証拠について213点が新たに開示され、法医学鑑定と供述心理分析鑑定にかかる鑑定人の尋問も行われた。


しかしながら、福岡高等裁判所宮崎支部は、有罪立証の中心であった「共犯者」の自白の信用性を「必ずしも高いとまでは言えない」と認めたにもかかわらず、争点化もされておらず、事件の直接の目撃者でもなかった「共犯者」の親族の供述が信用できるとして、即時抗告を棄却したため、2014年(平成26年)7月、原口氏は特別抗告をしていた。


本決定は、「憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法433条の特別抗告理由に当たらない。」として、即時抗告審決定の内容について何ら検討しないまま、わずか半年あまりの審理期間で棄却決定を行ったものである。


再審請求については、最高裁判所の白鳥決定及び財田川決定が判示するように、新証拠の明白性判断は、新証拠の証明力評価を経た上で、これが肯定されれば、新旧全証拠を総合評価して判断すべきものであり、そこで「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則が適用されるのは当然である。再審開始決定をした第1次再審請求の請求審である鹿児島地方裁判所は、旧証拠である「共犯者」の供述だけでなく、「共犯者」の親族の供述も極めてぜい弱なものであることを踏まえて、白鳥・財田川決定の手法に従い、新旧全証拠を総合的に評価して新証拠の明白性を認めたのである。


しかるに、再審請求を棄却した即時抗告審決定は、争点化されていなかった「共犯者」の親族の供述について、供述それ自体の信用性の検討を十分に行わないまま、高い信用性を認めるという不意打ち的なものであり、更に新旧全証拠の総合評価も行っておらず、明らかに白鳥・財田川決定に違反したものであった。そして、本決定は、即時抗告審の判例違反について、何ら具体的に判示することなく抗告を棄却したものであり、到底是認できない。


即時抗告審の意見陳述の場において、「生き返りたい。このままでは死んだも同然。無実を晴らしたらもう一度生き返ることができる。」と訴えた原口氏も既に87歳となり、一刻の猶予もない。


当連合会は、今後も請求人の再審開始を目指し、引き続き全力を尽くしていく所存である。

 

  2015年(平成27年)2月4日

日本弁護士連合会      

 会長 村 越   進