日米地位協定(環境条項)の改正問題に関する会長声明

日米両政府は、2013年12月25日の「在日米軍施設・区域における環境の管理に係る枠組みに関する共同声明」に基づき、2014年2月以降、米軍基地の環境管理に関する協議を続けており、去る10月20日には、日米地位協定を補足する環境の管理の分野における協力に関する補足協定について、実質合意に至ったと発表した。今後、協定締結に向けての作業を進めるとしている。


当連合会はこれまで日米地位協定の抜本的見直しの必要性を繰り返し指摘し、2002年8月には「日米地位協定の改定を求める理事会決議」、2014年2月には「日米地位協定に関する意見書」を発表して、その構造的な問題点を明らかにし、抜本的改正を提言してきたところである。環境問題についての一部であるが、日米地位協定の見直しがなされること、そして単なる運用改善合意だけでなく、補足協定の締結を予定していることについては、一定の評価をし得るものである。


しかし、今回の協議内容及び実質合意には、次のような根本的な問題があり、再検討されるべきである。


第1は、本協議の対象である環境問題の対処においても、我が国の法令の米軍への適用やその実効性の確保等、地位協定全体の枠組みと連動する構造的な問題を解決しなければ実効的に対処し得ず、日米地位協定全体を抜本的に見直すべきである。


第2に、本協議は、法の支配の実現、国土の保全及び国民の権利の保障という視点を明確にし、国民的議論を踏まえた上でなされるべきである。ところが日本政府は、何らその基本姿勢を国民に示すことなく、秘密裏に米国との協議を重ねてきており、国民に開かれた議論がなされていない。


第3に、「補足協定」の締結において、条約として批准及び国会承認の手続が践まれるのかが明確にされていない。この問題は本来、日米地位協定に環境条項を追加して規定し、条約としての改定手続を履践してなされるべきものである。仮に単に政府間合意で処理されてしまうならば、主権者たる国民、その代表たる国会が全く関与できないまま重要な環境条項が決定されてしまうことになる。


第4に、実質合意に至ったと発表された内容についても、以下のような問題がある。
① 環境基準については、米国政府は「日本環境管理基準(JEGS)」を維持し、日本、米国又は国際約束の基準のうちより厳しいものを一般的に採用するとしている。しかし、JEGSは、在日米軍司令部により作成される米軍の内部基準にすぎず、日米合意という性格を持たないため、その拘束性は弱く、その改定も米軍の意思のみで行われている。そしてJEGSには、極めて大きな環境問題である航空機等の騒音をはじめ、振動、悪臭等に関する定めを欠いている。
② 基地内への立入りが認められる場合として、環境事故(漏出)と土地の返還に関する現地調査のみが挙げられているが、限定的すぎる。また、日本側の権利としての立入権を認めるのか否か、自治体関係者も立ち入れるのか、その範囲はどこまで及ぶのか等も明確でない。
③ 環境を汚染した場合の原状回復・浄化義務を米軍に課さず、逆に、環境に配慮した事業・活動の経費を日本側が負担することになっている等、現在の世界の環境保全法制の大原則である「汚染者負担の原則」が全く顧慮されていない。この原則が採用されないことは、米軍がこれまでどおり、自らの責任による環境保全・汚染防止の意識に乏しいまま軍を運用することにつながり、環境汚染問題を抜本的に解決するのは困難である。


よって、当連合会は、日米両政府に対し、日米地位協定の抜本的見直しとともに、在日米軍の施設・区域及び活動に関する環境問題については、日米両政府の合意のみで成立させる補足協定ではなく、国民に対して開かれた手続により、国会が関与して日米地位協定自体に環境条項を追加規定すべきこと、そしてその規定は、ドイツ補足協定(1993年改定)54A条及びB条等を参考として、日本又は米国の環境法規のより厳しい基準に従うことを明文化し、環境被害について米軍に対し予防義務、原状回復義務を課すほか、環境被害の発生が予期されるときは関係自治体や専門家が米軍基地内に立入調査できること等を含めた抜本的な改定がなされるべきことを、改めて求めるものである。

 

  2015年(平成27年)1月7日

日本弁護士連合会      

 会長 村 越   進