生活保護の住宅扶助基準、冬季加算の引下げに改めて強く反対する会長声明

 

平成26年5月30日、財務省の財政制度等審議会(以下「財政審」という。)は、生活保護の住宅扶助基準について、「水準の適正化と改定方式の見直しが必要」とし、冬季加算についても、「水準の適正化と対象地域の限定が必要」とする報告書を発表した。これを受けて、同年6月24日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2014(いわゆる骨太の方針2014)でも、「住宅扶助や冬季加算等の各種扶助・加算措置の水準が当該地域の類似一般世帯との間で平衡を保つため、経済実勢を踏まえてきめ細かく検証し、その結果に基づき必要な適正化措置を平成27年度に講じる」とされ、政府は引下げの方針を示した。

 

この点に関し、現在、厚生労働省の社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)において、審議されているが、基準部会ではこれらの引下げに対して、慎重意見が多い。

 

まず、財政審で提出された資料に、下記の問題点がある。

 

すなわち、住宅扶助についての財政審の資料では、住宅扶助基準額(上限額)が一般低所得世帯の家賃実態を上回っているとしている。しかし、この一般低所得世帯(年収300万円以下の世帯)には、生活保護利用世帯や生活保護基準以下で生活する世帯も含まれ、自ずと下方バイアスがかかっており、かかる一般低所得世帯(年収300万円以下の世帯)の平均家賃額と、生活保護利用者に支給され得る上限値である住宅扶助基準額とを比較している点において、比較対象自体が適当でない。しかも、生活保護利用世帯の住宅扶助の実績額(平均)は37、088円(2人以上の世帯)であって、上記一般低所得者世帯の平均家賃額38、123円と比べても、なお低く、生活保護利用世帯が不当に優遇されているという実態はない。

 

また、住生活基本法に基づく住生活基本計画は、専用の台所、水洗トイレ、浴室、洗面所等の設備を満たし、健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積に関する水準である「最低居住面積水準」を定めているが、本来、住宅扶助基準は、この水準を満たす住宅を借りることができるものでなければならない。しかし、現行の単身世帯の住宅扶助基準の家賃で借りられる、上記の水準を満たしている全国の民営借家又はUR賃貸住宅はわずか56万件(13.1%)しかないため、都市部に多く居住し、113万世帯に及ぶ単身生活保護世帯が入居できる確率は低く、住宅扶助基準を引き下げれば、更に居住水準が低下することは必至である。

 

また、冬季加算について、基準部会に参考配布されている財政審の資料が、「生活保護世帯の光熱費(冬季増加額)は全国的に冬季加算額を下回っており、特に北海道、東北、北陸で乖離が大きくなっている」としている点にも問題がある。すなわち、ここにいう「冬季増加額」とは、「光熱・水道代の冬季(11月~3月)の平均額から4月~10月の平均額を差し引いたもの」とされているが、北海道・東北等の寒冷地において暖房を要する期間は、11月から3月だけではなく、概ね10月から6月の9か月に及び、寒冷地における4月から10月の光熱費は他の地域と比べ高額となるため、11月から3月の光熱費との差が小さくなるのは当然である。「冬季における光熱費等の増加需要に対応する」という冬季加算の趣旨からすれば、本来は、地域別に年間を通じての所要暖房費(防寒用具等を含む)の実額データを出し、11月から3月に支給される地域別の冬季加算額がこれを賄えているかを検証すべきである。

 

生活保護基準は、我が国における「健康で文化的な最低限度の生活」の水準を具体化した、いわゆるナショナル・ミニマムである。生活扶助基準については、既に平成25年8月から段階的な引下げが実施され、当連合会は、これらの引下げには合理的な根拠がないとして、繰り返し反対の意見を表明し、住宅扶助基準や冬季加算についても、安易な削減の見直しを強く求めてきたところである(2014年(平成26年)8月8日付け「経済財政運営と改革の基本方針2014(社会保障改革部分)の見直しを求める会長声明」)。

 

上記の段階的に実施されている生活扶助基準の引下げに合理的根拠がないことに加えて、とりわけ光熱費、食料費等の生活必需品を中心に物価が高騰している中で、住宅扶助基準や冬季加算の更なる引下げが強行されれば、生活保護利用者の健康や生命にも重大な影響を及ぼしかねない。
 
当連合会は、生活保護の住宅扶助基準、冬季加算の引下げに改めて強く反対するとともに、基準部会の多くの委員から慎重な意見が繰り返し示されていることを十分に踏まえ、政府が生活保護の住宅扶助基準、冬季加算の引下げを見送るよう求める。

 

 

   2014年(平成26年)12月12日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越  進