選挙権年齢引下げに伴う未成年者の選挙違反行為処罰に関する会長声明

 

現在、与野党において、選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる公職選挙法の改正案に関して、18歳、19歳の選挙違反行為について原則として逆送し成人同様に刑事裁判の対象とする規定を設けることが検討されている。
上記の案を支持する立場は「18歳、19歳であっても公民権停止や連座制を適用するべきであり、そのために成人同様の刑事裁判の対象とするべきだ」ということをその主張の根拠とするようである。


しかし、このように犯罪類型のみに着目して当該少年の要保護性を軽視する考え方は、少年法の基本理念と抵触する。


少年法は、未成年者の犯罪行為に対し、その全ての事件について専門機関である家庭裁判所の判断を優先させることを定めている(全件送致主義)。その上で、非行少年に対する保護処分の要否や処遇選択の判断に当たって、非行(犯罪)事実とともに、少年の要保護性(資質や生育環境・生育歴など)を重視している。この少年の要保護性に対する手当こそが、少年の立ち直りと再非行の防止に効果をあげている少年法の真髄である。そして、少年法の定める手続が有効に機能していることが、結果として社会の安全・安心にもつながっている。


現行の公職選挙法においても少年が罰則規定に違反する行為を行った場合には、他の少年事件と同様に家庭裁判所が少年法に則って審理を行ってきた。そして、少年法の手続は、家庭裁判所が罪質及び情状に照らして当該少年に対しては刑事処分が相当だと認めるときには事件を検察官に送致し、少年を成人同様、地方裁判所に起訴することをも想定している。これまで、このような保護処分を優先して考える少年法の枠組みで公職選挙法違反に対応してきて不都合があったということは指摘されておらず、公職選挙法違反の罪を犯した少年についてのみ、少年法の定める手続が有効性を欠くとは考えられない。


当連合会は、2006年3月16日付け「『改正』少年法・5年後見直しに関する意見書」において、「少年法の基本的立場は、非行を犯した少年の要保護性に着目し、その更生をはかる見地から、可能な限り刑罰ではなく教育を施すところにある(保護主義・教育主義の理念)。しかるに、法20条2項は、非行結果の重大さに着目して検察官送致(逆送)決定をいわば「原則化」するものであり、そもそも少年法の理念との整合性に問題がある。」と述べ、法20条2項(16歳以上の少年の故意行為により被害者が死亡した場合には、諸事情を考慮して刑事処分以外の措置を相当と認めるとき以外、検察官送致決定をしなければならないとする。)を削除すべきだと主張した。この「意見書」の考え方は、まさに今回の18歳・19歳の選挙違反行為について原則として家庭裁判所から検察官に逆送し成人同様の刑事裁判の対象とする案に対しても妥当する。


公職選挙法違反という一定の犯罪(が疑われる場合)のみを抜き出して、原則として逆送するという当該少年の要保護性を軽視する考え方は、少年の要保護性に着目し、その更生を援助するという少年法の理念に反するものであり、到底是認できない。このことは、仮に連座制適用の対象となる重大な選挙違反を犯した場合に限るとしても、同様である。


よって、当連合会は、公職選挙法を改正して、選挙権年齢を18歳以上に引き下げることに異論はないが、18歳、19歳の選挙違反行為について原則として逆送し成人同様に刑事裁判の対象とする規定を設けることについては、強く反対する。
 

 

 
 2014年(平成26年)10月31日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進