浪江町民等の集団申立てにかかる東京電力による原子力損害賠償紛争解決センターの和解案拒否に関する会長声明
東京電力は、本年6月25日、浪江町民15000人以上による集団申立事件について、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)が提示していた和解案のうち、重要な部分について、事実上拒否する回答を行った。本和解案は、申立人ら全員に共通する事情として、避難生活が長期化し、帰還の目途も立っておらず、今後の生活再建や人生設計の見通しを立てることが困難であり、また、避難状態の長期化により、近隣住民や親族等から切り離された孤立状態が続き、元の状態に復することがより困難となりつつあると認め、原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針が策定された時点よりも精神的苦痛が軽減されるどころか増加し、より深刻化しているとして、2012年3月以降について、中間指針等で定める慰謝料に一律に月5万円の慰謝料増額を認めるなどとしたものである。申立人である浪江町民は、5月26日に本和解案を受諾していた。
なお、東京電力は、去る5月27日、居住制限区域である飯舘村蕨平地区住民33世帯111名が行った集団申立てについても、センターの提示した和解案の重要部分について事実上拒否する回答を行ったばかりである。
センターは、2011年9月の申立受付開始以来、法律家によって運営される準司法的な機関として、原子力損害賠償紛争審査会の定める指針に基づきながら、被害の具体的実情に即した損害賠償の実現のために活動し、原子力損害賠償に関して、被害者の権利救済の中核的機能を担ってきた。中間指針等はそこで示されていないものが賠償の対象とならないというものではなく、これら2つの和解案の提示も、その一環にあるものである。
これまで、当連合会は、センターの和解案について、東京電力に対して、再三、自ら策定した新・総合特別事業計画等において掲げた「和解仲介案の尊重」の誓約を遵守し、被害者に対して迅速な賠償を行うよう求めてきた。しかしながら、今般の2つの申立てに対する東京電力の対応は、原子力損害賠償問題を「円滑・迅速・公正」に解決するために設置されたセンターの理念を踏みにじるものであるだけでなく、センターの存在意義そのものを大きく揺るがすものである。
当連合会は、2012年8月に、センターの和解案の提示に加害者側への裁定機能を法定し、東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り、裁定どおりの和解内容が成立したものとみなすこととすべきであり、東京電力側は裁定案の内容が著しく不合理なものでない限り、これを受諾しなければならないものとすることなどを趣旨とする立法提言を行い、さらに、本年5月30日の当連合会定期総会においても、改めてその実現を求めていくことを宣言したところである。今般の東京電力の対応に鑑み、当連合会は、被害者本位の損害賠償を実現させるため、改めて以下の点を強く求めるものである。
第1に、東京電力に対し、新・総合特別事業計画における「東電と被害者の方々との間に認識の齟齬がある場合であっても解決に向けて真摯に対応するよう、ADRの和解案を尊重する」との誓約を守り、センターの和解案を尊重、遵守することを、重ねて強く求めるとともに、政府に対しても、東京電力を強くその旨指導することを求める。
第2に、原子力損害賠償紛争審査会に対し、避難が長期化し、帰還が困難となっている地域住民の被害の深刻な実情を反映した精神的損害に関する追加の指針を速やかに策定するよう求める。
第3に、政府及び国会に対し、東京電力による和解案拒否を再発させないため、速やかにセンターの和解案に、その内容が著しく不合理なものでない限り東京電力の応諾を義務付ける片面的裁定機能を付する立法を行うよう求める。
日本弁護士連合会
会長 村越 進