生活保護基準引下げによる、就学援助等の基準への波及を阻止するための実効的な措置を講じることを求める会長声明

本年6月9日、文部科学省は、昨年8月からの生活保護基準の引下げの影響で、各自治体の平成26年度の準要保護者(生活保護利用者に準じる生活困窮者)に対する就学援助の適用範囲が縮小されているか否かについて、調査の結果を発表した。その結果、生活保護基準の見直しに伴う影響への対応を直接的には行っていない自治体が71存在し、これによって制度を利用できなくなる可能性のある人々が少なからず存在することが明らかとなった。

 

生活保護基準は、我が国における「健康で文化的な最低限度の生活」の水準を具体化したもの(いわゆるナショナル・ミニマム)であり、これを引き下げれば、連動して様々な低所得者施策に影響を及ぼすことが必至であることから、当連合会は、繰り返し生活保護基準の引下げに反対する声明等を発表してきたところである。これに対し、政府は、「生活扶助基準の見直しに直接影響を受け得る国の制度」については、「できる限りその影響が及ばないよう対応する」とする一方、準要保護者に対する就学援助等の地方単独事業については、「国の取組を説明の上、その趣旨を理解した上で各自治体において判断して頂くよう依頼」するとしてきた(「生活扶助基準の見直しに伴い他制度に生じる影響について(対応方針))。

 

しかしながら、準要保護者に対する就学援助等の地方単独事業への影響回避は、地方任せでは達成できない。準要保護者に対する就学援助制度については、2005年に国庫補助が廃止されたことから、幾ら国が「依頼」したところで、特に財政力の弱い地方自治体が従前の基準を維持するのが困難であることはかねてから指摘されていた。今般の文部科学省の調査結果によって、上記の政府方針にもかかわらず、生活保護基準の引下げによる就学援助等の他制度への影響波及が不可避であることが明確になったものといえる。

 

上記調査結果によれば、「生活保護の基準額に一定の係数を掛けたもの」を就学援助の認定基準としている自治体が1203(68%)も存在するのであり、このままでは来年度、再来年度には、より多くの就学援助制度を利用する人々が、生活保護基準引下げの波及効果によって制度を利用できなくなることが予想される。

 

そこで、当連合会は、国に対し、そもそもの原因である生活保護基準の引下げを撤回することを強く求めるとともに、少なくとも、生活保護基準引下げが準要保護者に対する就学援助等の地方単独事業の適用基準の引下げに影響しないよう、実効的な措置を講じるよう求めるものである。 

 

 



 


  2014年(平成26年)6月10日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進