高濃度放射性物質汚染水による海洋汚染を未然に防止するための対策の抜本的見直しを求める会長声明

福島第一原子力発電所の高濃度放射性物質汚染水の環境中への漏えい事故が後を絶たない。


去る2月12日には、海側敷地の汚染を調べるための井戸から1リットル当たり7万6000ベクレル、翌13日には1リットル当たり13万ベクレルという、地下水としてはこれまでにない高い濃度の放射性セシウムが検出された。この事実は、高濃度放射性物質汚染水による汚染の深刻さを改めて示した。


また、2月19日には、地上タンクから処理水約100トンがあふれた。その原因は、タンクの弁が開け放しにされており、移送先の水位の監視も怠っていたこととされている。直近では、4月14日に、一時貯蔵した高濃度汚染水約203トンが、予定していた貯蔵場所とは別の場所に誤って移送された。さらに、4月16日には、新型除染装置「ALPS」では約1トンの汚染水が移送先の容器からあふれた。これは容器の水位の監視を怠った単純ミスによるものであったとされている。


しかしながら、より根本的には、そもそも、汚染水タンクは常に満水に近い状態での運用が続いており、こうしたミスを未然に防止するための体制が構築されていないことにあるというべきである。


高濃度放射性物質汚染水による海洋汚染を防止するための根本的な対策は、これ以上無用な汚染水を発生させず、また、海洋に流れ出ることを防止することである。


この根本的な対策として、凍土方式の遮水壁を構築することが検討されており、政府も2013年9月に国費の投入を決定した。


しかし、凍土方式の遮水壁は、現在のところ、わずか10メートル四方を囲む範囲の実験がなされているにすぎない。本年7月から本格工事に着手する予定の凍土壁は、4つの原子炉建屋とタービン建屋を囲む、総延長1.5キロメートル、幅1.5メートル、深さ30メートルに及ぶものである。このように大規模でしかも数年を超える長期運用を前提にした凍土壁施工の実績はない。


既に日本陸水学会は、2013年9月20日に「凍土遮水壁では放射性物質を長期間完全に封じ込めることが出来ないだけでなく、より大きな事故を引き起こす可能性が高い」ことを指摘し、「他の工法による原子炉及びその周辺施設を完全に外部から遮断できる抜本的な対策の選択を要望」した。また、原子力規制委員会も、大規模凍土壁の構築と長期維持の技術的困難以外に、凍土壁運用中の「原子炉建屋内部の止水」方法の検討がないことも挙げ、凍土壁に重大な疑問を呈している。この止水がなければ、凍土の解凍により汚染源は再び水を得て汚染水問題は再燃する。


このように凍土方式の遮水壁は、高濃度放射性物質汚染水による海洋汚染を未然に早急に防止する対策としての、技術的な条件を満たしていないといわざるを得ない。


当連合会は、2011年6月23日、政府及び東京電力に対し、工事費用負担の問題にとらわれることなく、手遅れとならないうちに地下水と海洋汚染のこれ以上の拡大を防止するため、地下バウンダリ(原子炉建屋及びタービン建屋の周りに壁を構築遮水するもの)の設置を含めた抜本的対策を速やかに計画・施行することを求める会長声明を発表した。この時点で、速やかに恒久的な遮水壁構築の措置が講じられていれば、今日の事態は避けられたのであり、政府と東京電力が海洋汚染防止のための抜本的な措置を何ら講じなかったことは誠に遺憾である。


さらに、根本的には、こうした海洋汚染の防止のための短期的な汚染水対策は、溶融燃料の取り出しや廃炉作業といった中長期的な措置も見据えて計画することが必要である。


よって、当連合会は政府及び東京電力に対し、福島第一原子力発電所の高濃度放射性物質を含む汚染水の発生と海洋汚染のこれ以上の拡大を防止するため、組織、人材、予算等あらゆる資源を投入して、凍土方式の遮水壁にこだわることなく、技術的な有効性が確立している方法で、一刻も早く、汚染源への地下水流入を恒久遮断するための対策を講じ、国際社会と国民の不安を取り除くよう強く求めるものである。


 2014年(平成26年)4月25日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進