特定秘密保護法案について改めて廃案を求める会長声明

特定秘密保護法案に関連して、自由民主党の石破茂幹事長が、自身のブログで、議員会館付近での同法案に反対する宣伝活動に対して、「絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」と述べたことにつき、厳しい批判の声が上がり、その後、記事の撤回と謝罪がなされたことなどが大きく報道された。


テロとはまったく異質な市民の表現行為をとらえて、テロと本質が同じであると発言したことについては、当連合会としても、表現の自由を侵害するもので許されないと考える。


特定秘密保護法案においては、第12条2項で「テロリズム」の定義が記載されている。これに対しては、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」する行為がそれ自体でテロリズムに該当すると解釈されるのではないかとの疑義が示され、問題であると指摘されている。


この点について、政府は、「人を殺傷する」などの活動に至る目的としての規定であるとし、石破幹事長も説明を修正したが、政権与党の幹事長が、上記のような発言をしたことは、その後発言が修正されたとはいえ、市民の表現行為が強要と評価され、直ちにテロリズムに該当すると解釈されることもありうるという危険性を如実に示したものということができる。


特定秘密保護法案については、その危険性を懸念する声が日に日に増しており、マスコミ各社の世論調査などによってもそのことが明らかとなっている。それにもかかわらず、衆議院では法案の採決が強行され、その拙速な審議が強く批判されている。このような状況において、やむにやまれず法案への反対を訴える市民の行動をとらえて、政権与党の責任者が、市民の宣伝活動について、テロ行為と本質が変わらない、主義主張を強要すればテロとなり得るなどと発言することは、甚だ不適切であり、特定秘密保護法が成立した場合に、表現の自由やその他の基本的人権を侵害するような運用がなされるのではないかとの危惧をますます大きなものにしたといわざるを得ない。


このようなテロリズムの解釈の問題については、国会審議でも疑念が指摘されたが、政府は条文の修正をしようとしない。この法案については、秘密の範囲が広範であいまいであり、秘密の指定が恣意的になされかねないこと、それをチェックすべき第三者機関の設置が先送りされたままであること、報道の自由をはじめとする表現の自由に対する萎縮効果があることなどの問題点が指摘されており、これに加えて、テロの定義が広がり、国民の正当な政府批判までが取締りの対象になる危険性が明らかになったのであって、このような問題点が払拭されないまま、この法案を成立させることは許されないというべきである。


よって、当連合会は、人権侵害のおそれがより明らかになった特定秘密保護法案について改めて廃案を求める。


   

 

 2013年(平成25年)12月3日

  日本弁護士連合会
  会長 山岸 憲司