衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明

本日11月20日、最高裁判所は、2012年12月16日に施行された第46回衆議院議員総選挙(小選挙区選出議員選挙)に対し、2011年3月23日の大法廷判決後、約1年9か月にわたり、1人別枠方式を含めた選挙制度が抜本的に見直されず、投票価値の較差が最大で2.43倍に拡大したこと等を理由として弁護士らが訴えを起こした選挙無効確認請求訴訟について、本件選挙時において、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあった」としつつ「憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」旨の判決を言い渡した。


今回の判決では、第45回衆議院議員総選挙を違憲状態にあると判断した2011年大法廷判決をどこまで進展させるかが注目されていた。同大法廷判決は、「できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し、区画審設置法3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある」と指摘しており、当連合会も同大法廷判決についての会長声明において、1人別枠方式を直ちに廃止し、選挙区割の見直しに着手するよう求めた。しかし、第46回衆議院議員総選挙は、投票価値の較差が前回の選挙に比べて拡大していたのに、1人別枠方式を含めた選挙制度が抜本的には見直されず、0増5減の定数調整を内容とする弥縫策にとどまり、選挙区割りは従来のまま行われた。


今回の最高裁大法廷判決は、投票価値の較差が違憲状態にあることを認めつつ、是正のための合理的期間が経過していないとして、選挙を有効とした。違憲状態にあることを認めたことは当然であるが、2011年大法廷判決から1年9か月が経過していれば、1人別枠方式を廃止して新しい選挙区割りを作成するには十分な時間があったはずである。ところがこの間、国会は、最高裁が求めた新しい選挙区割りとは無関係の定数削減論で紛糾し、結局上記のような0増5減の定数調整を内容とする弥縫策をなすにとどまり、投票価値の最大較差は2.304倍から2.425倍に、また較差2倍以上の小選挙区が45選挙区から72選挙区に拡大した。


にもかかわらず、判決が合理的期間を経過していないと判断したことは、政治部門への消極姿勢の現れと評価するほかない。選挙制度改革は、議員自身の利害が絡むため、議会自らによる改革を期待しにくい。それならば中立の裁判所が違憲審査権を積極的に行使して、民主主義の過程の歪みを解消できるように主導権を発揮すべき局面だった。3名の裁判官が選挙違憲とする反対意見を述べ、そのうち大谷剛彦裁判官は「国会情勢や政治情勢上速やかに合意を形成することが容易ではない事情があったことも認められるが、これらの諸事情は、事柄の性質に照らして通常必要とされる合理的期間を超えて区割規定の是正を行わなかったことを許容する正当な理由となり得るとはいい難い」と指摘し、大橋正春裁判官は「判断枠組みを変えて選挙無効判決の是正の実現の可能性を回復する方向が望まし」いとし、さらに、木内道祥裁判官は「国会による改正が行われないまま選挙が繰り返し行われ、その結果として、選挙が無効とされるような事態が杞憂に終わることを切に期待するものである。」と述べた。


鬼丸かおる裁判官は「多数意見は、平成6年の制度改正後の選挙制度の下での区割りにおいて、投票価値の最大較差が2倍以上とならないようにすることを基本としていることに合理性を認めているが、私は既述のとおり、できる限り投票価値を1対1に近づけるべきであると考える」とした上で、「私が憲法上の要請であると考えるところの水準にかなう投票価値の平等を保障する選挙制度を実現するためには、」「相当程度の長期間を要するものといわざるを得ない。」として、多数意見の結論に賛同した。


これらの意見の内容には注目すべきものもあるが、本来は前回の大法廷判決を一歩進めて違憲とした上で、事情判決の法理によらずに選挙を無効とすべきであった。


裁判所には、司法権の担い手としてだけでなく、憲法の最後の守り手としての役割が期待されている。違憲審査権を行使して、立憲主義、法の支配を貫徹させていくのは裁判所の役目である。特に本件のように、民意を反映すべき民主主義の過程そのものが歪んでしまっている場合にこれを正すことは、裁判所以外にはなし得ない。今回の最高裁大法廷判決は民主主義の過程そのものが歪んでいる状態をさらに延長させてしまうものであって、裁判所が果たすべき職責に照らし不十分なものと言わざるを得ない。


当連合会は、裁判所が積極的にその憲法保障の機関としての役割を果たすことを強く希望するとともに、国会に対しては、定数調整の弥縫策に終始するのではなく、直ちに根本的な選挙制度の見直しを行い、衆議院議員選挙区画定審議会に選挙区別議員1人当たりの人口数を1対1にできる限り近づけるよう、選挙区割を見直させることを求めるものである。

   

 

2013年(平成25年)11月20日

  日本弁護士連合会
  会長 山岸 憲司