NSAによる通信傍受に関する調査等を求める会長声明

元CIA(Central Intelligence  Agency、アメリカ合衆国中央情報局)職員であるエドワード・スノーデン氏の内部告発により、アメリカ合衆国のNSA(National Security Agency、国家安全保障局)がPRISM(正式名称:US-984XN)と呼ばれるシステムを利用し、大手ネット企業のサーバーから直接ユーザーデータを取得しているとの報道がなされた。この報道を受け、Yahoo等の大手ネット企業も、FISA(Foreign Intelligence Surveillance Act、外国情報監視法)等に基づく情報提供の要請を受けたことを認めるに至っている。


FISAによるデータ取得は、その都度の個別の令状なしに、すなわち具体的な犯罪の嫌疑の裁判所による確認なしで行われるものである。FISAが取得した情報には日本国民の個人情報も含まれているものと推測され、日本国民の通信情報も、具体的な犯罪の嫌疑に基づく裁判官が発する令状抜きでアメリカ合衆国政府に取得されている可能性が高い。


アメリカ合衆国も批准している市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)17条1項は、「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。」と規定している。その都度の個別の令状なしの通信情報取得は行政機関の恣意的な情報取得に結びつくものであり、同条項に違反するおそれが強いものである。


NHKの報道等によると、NSA元幹部エドワード・ルーミス氏は、NSAにおいては個人のメタデータ(宛先や発信元の名称、アドレス、通信日時等のデータに関するデータ。)の取得を行っていたとのことである。このような通信の外殻に関わるメタデータであっても、個人の交友関係等を示すものとして、表現活動を含む個人のコミュニケーション保護のため、その情報の保護がなされなければならない。かかる趣旨から日本国憲法21条2項後段で保障される通信の秘密については、メタデータの情報を保護することをも含むと解すべきであり、たとえ国外においてであっても、日本国内で行われている日本人の通信の秘密が侵害されている危険性が高い状況を日本政府は黙認、放置すべきではない。


日本政府は、アメリカ合衆国政府による国際条約違反の可能性が高い情報取得について、具体的な調査を行い、調査結果を公表すべきである。また、国際法に違反する態様で通信情報が取得されている場合には、日本国民の通信の秘密が侵害されていることに鑑み、アメリカ合衆国政府に対し、直ちに法改正あるいは運用の改善をするよう求めるべきである。
   
    

2013年(平成25年)8月9日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司