「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」に関する会長声明

 

本年5月29日、厚生労働省内の「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」は、「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」(以下「本とりまとめ」という。)を公表した。これを受けて、厚生労働省は、今秋の臨時国会において必要な法改正を目指すと報じられている。


医療事故が発生したとき、その原因を調査分析して再発防止に生かすことは、患者の安全な医療を受ける権利の実現のために欠かすことのできない取組である。そのため、当連合会は、2007年3月16日付け「『医療事故無過失補償制度』の創設と基本的な枠組みに関する意見書」及び2008年10月3日付け「安全で質の高い医療を受ける権利の実現に関する宣言」など、かねてより、国に対して、医療事故調査制度を整備することを繰り返し求めてきた。今般、本とりまとめによって、医療事故調査制度の実現に向けた具体的な作業が開始されることは、まずは評価することができる。ただ、本とりまとめには、なお検討すべき問題点がある。その骨子は、次の3点である。


第一に、調査の対象となる医療事故及び第三者機関への届出の範囲は、より広く設定すべきである。本とりまとめは、行った医療又は管理に起因した死亡(そのような死亡が疑われるものを含む。)で事案の発生を予期しなかったものを対象とするが、本来、再発防止のためには、広く医療事故事例を集積して調査分析することが求められる。当面、診療関連死から開始するとしても、本とりまとめのように調査対象を限定するべきではないし、不作為による事故事例も対象とすることを確認すべきである。なお、死亡事例以外は、段階的に拡大していくとしているが、早急に拡大すべきである。また、医療機関は事故発生後直ちに届出を行うよう明示すべきである。さらに、第三者機関に対する事故の届出については、遺族からの届出を受理する仕組みも必要である。


第二に、院内事故調査委員会について、中立性・透明性・公正性・専門性を担保する具体的な仕組みが必須である。本とりまとめは、外部の専門家の支援を受けることができるという記載にとどまるが、具体的には、外部委員を過半数とする、弁護士等医療者以外の外部委員を加える、委員長は外部委員とするなどの原則的な委員構成を明確に定める必要がある。また、支援法人・組織にも、中立性・透明性・公正性・専門性を担保する制度が必要である。


第三に、第三者機関の業務を効果的にするためには、事故調査等情報の収集、院内事故調査に対する指導・監督・検証、独自の事故調査、再発防止勧告、医療安全の啓蒙普及などに関する権限を認め、これを法律で明確に定めなければならない。本とりまとめは、独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を有する民間組織としての第三者機関を設置するとしている。この点、院内事故調査に任せるのではなく、第三者機関がかかる実質的な機能を果たすことが、市民が信頼するに足る事故調査制度であるためにも必須である。そのためには、これが全国一つの組織ではなく地域単位で支所を設置するなど、必要な役割を果たし得る組織として設置される必要がある。また、第三者機関の維持・運営のために、十分な予算措置を講じること及び事故調査に必要な解剖実施体制の整備が必要である。

 

医療事故の再発防止及び医療の安全と質の向上は、全ての市民の命と健康、ひいては人生に直結する。国にはこれを保持する責務がある。医療事故調査制度はこの医療の安全と質の向上を実現するために必須の制度であり、この医療事故調査制度を担う要は、独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を有する第三者機関である。本声明が指摘する問題点を解決し、我が国において、かかる第三者機関が設置され、真に実効性のある医療事故調査制度が創設されることを強く望むものである。
  
    

2013年(平成25年)8月9日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司