最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

 

中央最低賃金審議会は、近々、厚生労働大臣に対し、本年度地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。この点、本年度は、以下に述べるように、物価上昇傾向や生活保護との逆転現象の拡大がみられ、もはや昨年までのような小幅な引上げで済ませることは許されない。


まず、消費者物価指数等の統計においては、未だ明確に現れていないものの、昨年来、政策的に導かれた円安の影響によって、食品や燃料などの価格が大幅に上昇する傾向にある。今後予想される物価の上昇は、全労働者の4割近くを占める非正規労働者(直近の総務省の統計では38.2%と過去最高)を含む労働者全体の生活に大きな影響を与える可能性があり、近年にも増して、最低賃金額の引上げが急務である。


また、2007年の最低賃金法の改正以降、最低賃金額の改定にあたっては、毎年、「生活保護に係る施策との整合性」(同法9条3項)が強く意識されてきており、生活保護費(生活扶助+期末一時金+住宅扶助実績)との逆転現象を解消することが、最低賃金額引上げの理由の一つとされてきた。昨年の最低賃金額の改定によって逆転現象を生じているとされるのは6都道府県に減少したものの、中央最低賃金審議会目安に関する小委員会に提出された資料によれば、再び11都道府県に拡大している。逆転現象を早期に解消し、今回のような事態を生じさせないためには、昨年までのような小幅な引上げでは到底足りない。


なお、本年8月以降、生活保護費の削減が行われることになっているが、既に2012年9月20日付け「我が国の生存権保障水準を底支えする生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」や本年1月25日付け「社会保障審議会生活保護基準部会の報告書に基づく生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」にて指摘しているとおり、今回の生活保護基準の引下げは違法の疑いがある。生活保護基準の引下げを理由にして、最低賃金額の引上げを抑制することとなれば、働いても働いても人間らしい生活を送ることができない「ワーキングプア」の問題の解消は、遠のくばかりである。


そもそも、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」においては、2020年までの目標として、「全国最低800円、全国平均(全国加重平均)1000円」にまで最低賃金を引き上げることが明記されている。これは、政労使間での合意を受けたもので(雇用戦略対話第4回会合)、政府は、この目標を早急に達成すべき責務を負っているのであるが、2008年度から2012年度までのような7円~17円程度の引上げペースでは、到底、達成は不可能であり、1年に少なくとも30円以上の大幅な引上げが必要である。


本年6月14日に閣議決定されたばかりの「日本再興戦略」及び「経済財政運営と改革の基本方針」においても、中小企業・小規模事業者への支援を図りつつ最低賃金引上げに努めるべきこととされ、最低賃金引上げの必要性が強調されている。当連合会も「最低賃金制度の運用に関する意見書」(2011年6月16日)、「最低賃金と生活保護の『逆転現象』を解消するよう改めて求める会長声明」(2012年7月20日)等を公表し、繰り返し最低賃金の大幅な引上げを求めてきた。


以上のとおり、中央最低賃金審議会は、新成長戦略目標達成が実現可能な大幅引上げ、具体的には、現在の時間給749円(全国加重平均)から少なくとも30円以上の引上げを答申すべきである。


また、答申がなされた後は、各地の地方最低賃金審議会で各地の実情に応じた審議がなされることになる。各地の地方最低賃金審議会においても、以上のような状況を踏まえ、最低賃金額の引上げを図ることで、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保すべきである。
  
    

2013年(平成25年)8月2日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司