国連拷問禁止委員会の総括所見に関する会長声明
国連の拷問禁止委員会は、拷問等禁止条約の実施状況に関する第2回日本政府報告について2013年5月21日、22日に審査をし、同月31日に総括所見を発表した。我が国は、同条約の批准国として、勧告された内容につき改善に向けて努力する義務を負う。今回の総括所見では、前回審査における勧告の多くを繰り返すのみならず、前回を上回る厳しい勧告がなされた。特に重視すべき内容は、以下の7点である。
1 代用監獄制度については、(a)捜査と拘禁の機能の分離を実質的に確保するための立法その他の措置をとること、(b)警察留置場拘禁期間に上限を設けること、(c)全被疑者に取調べの全期間を通じた弁護人との秘密のアクセス、逮捕時点からの法律扶助、事件に関する全記録へのアクセス、独立した医療を受ける等の権利の保障を勧告し、さらに、代用監獄制度廃止の検討を求めた(10項)。
2 取調べと自白について、日本の刑事司法制度が実務上、自白に強く依存していること等に深刻な懸念を表明し、(a)取調べ時間の制限及び違反に対する制裁規定を設けること、(b)自白中心主義の実務をやめること、(c)取調べの全過程の電子的記録と同記録の法廷での利用等を求めた(11項)。審査では、同委員会委員から「日本は自白に頼りすぎではないか。これは『中世』の名残である。」という批判さえ受けた。
3 難民認定制度と入管収容施設については、(a)収容・送還に関する法令及び実務を条約第3条(拷問の行われる恐れのある国への送還禁止)に適合させる努力、(b)難民申請者の収容は、最後の手段として必要最小限のみ用いること及び収容期間に上限を設けること、(c)収容代替措置をより活用すること、(d)入国者収容所等視察委員会の独立性・権限・効果の強化等を勧告した(9項)。
4 刑事施設及び留置施設の被収容者からの不服申立については、専門の独立かつ効果的な機関の設置を考慮するよう求め、虐待等の訴えについて迅速・公平かつ安心な調査に加え、重大事案における公務員の訴追と処罰を的確にすること等を勧告した(12項)。
5 拘禁処遇については、拘禁代替措置の活用等による刑事施設の過剰収容緩和や心身疾患に適切な医療を提供することを勧告しているほか、第二種手錠の使用に対する厳格な監視に加え、拘束具の廃止の検討を求めた。さらに、受刑者の独居(単独室)処遇は、他に手段がない場合に厳しい監督の下で最小限の期間、司法審査が可能な状況でのみ許容されるべく、明確な要件を確立すること、同処遇期間中の専門医による監視制度の構築、医療記録の開示等を勧告した(13、14項)
6 死刑制度と死刑確定者の処遇については、(a)死刑確定者及びその家族へ死刑執行日時の事前告知、(b)単独室収容の原則を改めること、(c)死刑確定者が全手続段階で弁護人による効果的な援助をうけること及び弁護人との面会の秘密性確保、(d)恩赦、減刑、執行の猶予が実際に利用可能とされること、(e)死刑事件の義務的上訴制度導入、(f)独立した審査により、精神疾患者に死刑が執行されないようにすること等を勧告した。さらに、死刑制度を廃止する可能性についても考慮するよう勧告した(15項)。
7 その他、戦時性奴隷制(いわゆる日本軍「慰安婦」)について、政府関係者その他の公的立場にある人物による被害事実を否定する動きに反駁することや、史実の教育を含め、被害者を中心に据えた解決策を見出すための法律上及び行政上の措置を取るよう求めた。また、いまだに国内人権機関が設置されていない状況に対して、パリ原則に合致した国内人権機関の早期設置を求めた(16項)。
当連合会は、同委員会による指摘を日本政府が重く受け止め、誠意を持ってその解決に向け努力することを強く求めると同時に、勧告の実現に向け政府との対話を継続し、これらの課題の解決のために努力する所存であることを表明するものである。
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司