「福井女子中学生殺人事件」再審異議審決定(請求棄却)に関する会長声明
本日、名古屋高等裁判所刑事第1部(志田洋裁判長)は、前川彰司氏に係るいわゆる「福井女子中学生殺人事件」再審請求事件の異議審において、検察官の異議を容れ、2011年(平成23年)11月30日に原審(請求審)である名古屋高等裁判所金沢支部が下した再審開始決定を取り消し、本件再審請求を棄却する決定を下した。
本件において、前川氏は一貫して無実を主張し、前川氏を有罪とする客観的証拠も皆無であった。わずかに、「犯行後に血を付けた前川氏を見た。」などとする暴力団員とその関係者の供述があったものの、これらの供述は捜査段階で著しい変遷を繰り返す等、捜査機関による誘導が歴然としていた。
本件の第一審である福井地方裁判所は、1990年(平成2年)9月26日、関係者供述について信用性を否定し、無罪判決を言い渡した。
ところが、名古屋高等裁判所金沢支部は、さしたる有力な証拠がないにもかかわらず、1995年(平成7年)2月9日、逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡した。さらに、最高裁判所も、控訴審の誤りを正すことなく、1997年(平成9年)11月12日、前川氏の上告を棄却し、有罪判決が確定した。
前川氏は、2004年(平成16年)7月15日に再審請求を申し立てた。そして、名古屋高等裁判所金沢支部の2011年(平成23年)11月30日の決定は、凶器と認定された2本の包丁では形成不可能な創傷が存在すること、犯行に使用したとされる自動車内から本来あるはずの血痕が発見されていないこと、さらに、自殺偽装が行われる等現場状況からうかがわれる犯人像が前川氏と著しくかけ離れたものであることなどを認めた。その上で、これらの事実は確定判決が有罪認定の根拠とした関係者の各供述の信用性に疑問を抱かせるに十分とし、前川氏を犯人とするには合理的疑いが生じたとして、再審開始を決定したものであり、もとより正当なものであった。
これに対し、本日の決定は、弁護団の提出した新証拠については、いずれも旧証拠の証明力を何ら減殺するものではないとして、原決定が指摘した上記の疑問点をことごとく無視し、その明白性を否定した。しかし、異議審においては検察官から見るべき証拠は提出されておらず、原決定が前提とする証拠関係と大きな違いはなかった。にもかかわらず、本日の決定は、何ら合理的な根拠を示すことなく、また、関係者の関与供述の変遷経過を十分に考慮することなく、安易に原決定の判断を覆し、原審の再審開始決定を取り消した。これは再審制度にも「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用されるとした白鳥・財田川決定を無視し、新証拠それ自体に旧証拠を凌駕するほどの証明力を要求しているという点で、不当極まりないものである。
本日の決定は、無辜の救済を図るという再審制度の理念に反するものであり、当連合会は、特別抗告審において、本日の決定が必ずや取り消されるものと確信している。
当連合会は、前川氏が再審無罪判決を勝ち取るまで、あらゆる支援を惜しまないことを表明する。
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司