生活保護窓口における違法な運用の是正を求める会長談話
本年2月20日、さいたま地方裁判所は、埼玉県三郷市で生活していた原告ら世帯が生活に困窮して福祉事務所を訪れた際、窓口の職員が生活保護を利用できないと誤解させる説明をして申請を妨げ、その後、原告らが再び訪問して生活保護の申請をしたにもかかわらず、申請があったものとして扱わず窓口で門前払いした事実等を認定し、福祉事務所の対応は、原告らの申請権を侵害した違法なものであるとして、原告らの損害賠償請求を認容する判決を言い渡した。
従前、当連合会は、生活保護の窓口で、申請さえ受け付けないという明らかに違法な運用が横行し、本来、生活保護制度を利用し得る人のうち実際の利用者の割合(捕捉率)は2割程度にとどまっていることから、生活保護の申請が権利であることを確認し、福祉事務所窓口での申請権を侵害するような運用を直ちに是正することを求めてきた(2006年10月「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」)。しかし、先般当連合会が実施した全国一斉生活保護ホットラインにも、窓口の違法な運用に関する相談が多数寄せられており、未だに状況は改善されておらず、本件は氷山の一角である。
ところで、政府は、本年1月29日付けで、生活扶助基準を平均6.5%(最大10%)引き下げて3年間で総額670億円を削減し、あわせて、生活保護制度の見直しによって450億円を削減する内容を含む平成25年度予算案を閣議決定した。しかし、生活保護基準の引下げは、現在の生活保護利用者の受給額を低下させるだけでなく、生活保護の利用要件を引き下げ、制度の利用要件を満たす対象者の数を縮小させることになることから、捕捉率を見せかけだけ上昇させる結果、依然として違法な運用が続いていることの責任を曖昧にする可能性がある。また、本判決が認定したような違法な運用が行われる温床を残したまま、財政削減効果を重視して生活保護制度の見直しを行うことは、新たな水際作戦の強化につながるおそれがある。したがって、まずは、違法な運用を是正し、生活保護の捕捉率を高めることが先決である。
当連合会は、生活困窮状態にある人を生活保護制度から不当に排除している生活保護行政の在り方に警鐘を鳴らすものとして、本判決を積極的に評価するとともに、国及び地方自治体に対し、あらためて、福祉事務所窓口における説明義務の徹底、申請書の備え置き等、申請権保障を徹底し、違法な運用が行われない体制を早急に整備することを求める。
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司