犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律への対応に関する会長声明

政府は、FATF(金融活動作業部会)による「40の勧告」の2006年第3次改訂実施状況についての日本に対する相互審査の結果、特に、顧客管理措置に関する勧告について不履行であるとの評価がなされたことを受けて、警察庁内に設置した「マネー・ローンダリング対策のための事業者による顧客管理の在り方に関する懇談会」における検討を経て、犯罪による収益の移転に関する法律(以下「犯収法」という。)の改正案を国会に提出し、この法案は2011年(平成23年)4月27日に成立し、2013年(平成25年)4月1日に施行されることになっている(以下「改正犯収法」という。)。



犯収法は、2007年(平成19年)3月29日に成立したが(平成19年法律第22号)、当連合会は、それに先立って、2007年(平成19年)3月1日の臨時総会において、「依頼者の身元確認及び記録保存等に関する規程」の新設を決議した。これは、「40の勧告」が弁護士を含む法律専門家に対して求めていた依頼者の身元確認義務、記録の保存義務、及び疑わしい取引の報告義務のうち、前二者の義務については、自らが会規で定めて受け入れることとし、弁護士がマネー・ローンダリングに関与したり、利用されたりしないようにするためであった。



その結果、犯収法においては、特定事業者のうち、弁護士については、上記の義務について法的義務を課されることはなく、また、他の士業も含めて、疑わしい取引の報告義務が課されていない。


この規程の施行後、同規程は会員に周知され、これまで、弁護士がマネー・ローンダリングに関与したり、利用されることはないという実績を積んできている。



当連合会は、この度、改正犯収法の施行に先立って、「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」の全面改正を、本年12月7日の臨時総会において決議するとともに、本年12月20日の理事会において、「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規則」の制定を決議した。



これは、弁護士に関する改正犯収法第11条第1項が、弁護士等に関する本人特定事項の確認及び記録保存については、他の士業者の例に準じて定めるとされていることから、他の士業者の例に準じて規程の改正及び規則の新設を行ったものである。新たな規程及び規則は、改正犯収法に定める内容を十分に満たす内容となっている。



改正された新たな規程は、弁護士がマネー・ローンダリングに関与したり利用されることがないように、依頼の目的が犯罪収益の移転にかかるものかどうか慎重に検討する義務、その目的が犯罪収益の移転にかかると知ったときはその目的の実現を回避するよう説得に努める義務を課している(本規程第6条ないし第8条)。これは犯収法にはない独自の規定であり、弁護士の職業的使命に鑑み、依頼者の本人特定事項の確認にとどまらず、犯罪による収益の移転防止のために積極的に働きかけるものである。



また、FATFの「40の勧告」の第3次改訂において、リスク・ベース・アプローチが許容されていたが、本年2月の第4次改訂においてはこれが強化されており、今後の国際的潮流になることが予想される。そして、FATFは弁護士向けにリスク・ベース・アプローチガイダンスを公表している。



当連合会としては、新たな規程にこの考え方を取り入れるとともに、本規程の運用においても、この考え方を参照していく予定である。



弁護士がマネー・ローンダリングにいささかも加担することがあってはならないことは当然である。



当連合会は、犯収法において、弁護士が、本人特定事項の確認、記録の保存義務及び依頼者の疑わしい取引の報告義務が法的義務として課されることがないようにするため、新たな規程及び規則を会員に周知徹底し、研修にも積極的に取り組んでいき、弁護士がマネー・ローンダリングに関与したり、利用されることがないよう、全力で取り組んでいく所存である。

 

2012年(平成24年)12月20日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司