警察庁発表の「取調べの録音・録画の試行の検証について」に関する日弁連コメント

2012年(平成24年)12月6日

日本弁護士連合会

 

 

 

警察庁は、2012年12月6日、「警察における取調べの録音・録画の試行の検証について」と題して、2008年9月から2012年9月末までの警察における取調べの録音・録画の試行の実施状況を、特に試行を拡大した2012年4月以降に重点をおいて発表した。


裁判員裁判対象事件については、試行拡大後の検挙件数1,849件(暫定値)に対し、録音・録画を実施した事件数が1,241件、実施率67.1%となっており、実施数自体は着実に増加している。また、送致前の実施が全体の43.2%(730回)と多く、一部否認が全体の30.8%、全部否認が全体の3.6%となっていて、録画場面は多様になっているが、録画の実施時間は平均21分、最長209分というのであって、2011年6月の検証時に比べてわずかに増加したに過ぎない。依然として、取調べのほんの一部だけが録画されているという状況であり、いまだ全過程の録画にはほど遠いといわなければならない。


この点につき、今回の発表では、「試行による録音・録画は、必ずしも取調べの全過程を対象とするものでないため、録音・録画されていない部分の供述の任意性等が争点となった場合、的確に立証できないのではないかとの意見もみられることから、事件ごとに可能な限り広く録音・録画を実施するという工夫が求められる。」と述べているが、より積極的に取調べの全過程をも対象とする試行を推進すべきことは明らかである。


また、録音・録画の有効性については、91.5%の取調官が効果があると回答している。取調べの全過程を録音・録画することについては、「事件によっては、全過程を録音・録画した方がよい場合がある」との回答が34.0%あり、全過程を録音・録画すべきであるとする3.7%とあわせて、全過程の録音・録画の有効性が一定程度取調官に理解されるようになってきていることが窺われる。取調べの全過程の録音・録画を義務付けるべきであるとの意見も4.7%あり、その理由として、その方が取調官の取調べ能力の向上につながるとしていることが注目される。取調べ能力の向上を図ることにより、全過程の録音・録画に抵抗感のある多数の取調官も、今後は考えが変わっていくことが期待される。


知的障がいを有する被疑者についての試行は2012年5月に始まり、9月末までの試行件数は417件で、警察において被疑者が知的障がいを有すると認め、対象事件に該当すると判断した463件の約9割に当たるというが、そのうち、「一つの事件において、全ての取調べの機会に録音・録画を実施した事件」が17件あるとのことである。知的障がいが疑われる限り、弁解録取時や取調べの早い段階の応答を必ず録画し、以後全体を通じて録画がなされるべきであることについて、さらに捜査幹部、捜査員に広く周知し、徹底すべきであるし、今後、「全過程」録画は増加していくものと見込まれる。捜査員が録音・録画の弊害と考えている事項、例えば、誘導のない質問をする取調官の精神的負担が大きいから録音・録画にデメリットがあるというのは本末転倒であり、取調べ能力向上のためにも、積極的に全過程の録音・録画をすることが有効であることを認識すべきである。


全国の警察署における録画機器の整備、また、被疑者の心理的負担の軽減のための録画機器の小型化などをさらに進めるため、国及び地方自治体の予算を拡充し、「全過程」録画の下、警察において取調べ技術を向上させる取組を一層推進することを期待する。