「東電OL殺人事件」再審判決に関する会長声明

本日、東京高等裁判所第4刑事部は、「東電OL殺人事件」について、ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏に対し、確定第一審の無罪判決に対する検察官の控訴を棄却する判決を言い渡した。


ゴビンダ氏は、1997年(平成9年)3月23日に全く別件である出入国管理及び難民認定法違反の容疑で逮捕されて以降、一貫して無実を主張してきたが、誤った有罪判決の確定によって強盗殺人犯の汚名を着せられた上、2012年(平成24年)6月に刑の執行停止決定を受けて帰国するまでの15年以上の長きにわたり、祖国ネパールにいる家族と引き離され、自由を奪われてきた。



当連合会は、ゴビンダ氏やその御家族のこれまでの労苦を心からねぎらうとともに、ゴビンダ氏を支えてこられた支援者の方々や弁護団の活動に対して深甚なる敬意を表するものである。



本日の判決は、確定第一審の無罪判決が多岐にわたってゴビンダ氏の犯人性に疑問を提示した点を正当として是認した。さらに、再審開始決定後に新たに実施されたDNA型鑑定の結果をも踏まえて、ゴビンダ氏以外の第三者が犯行に及んだ疑いが濃厚であることを指摘し、ゴビンダ氏が無実であることを明らかにした。



他方、検察官は、再審公判の段階になって無罪の意見を述べるに至った。しかし、それは新たなDNA型鑑定によって、もはや有罪主張を維持できないことが誰の目にも明らかになったからに過ぎず、それまで不合理な有罪主張に固執し続けてきた検察官の対応を考えると、余りにも遅きに失するものと言わざるを得ない。



そもそも、本来であれば、2000年(平成12年)4月14日に第一審の東京地方裁判所が無罪判決を言い渡した時点で、ゴビンダ氏は刑事手続から解放されるべきであったのであり、無罪判決に対する検察官上訴や無罪判決後の再勾留など、我が国の刑事司法制度が抱える問題点も浮き彫りとなった。



本件においては、再審請求後に新たに実施されたDNA型鑑定が、ゴビンダ氏の無実を明らかにするための有力な手段となった。従って、えん罪防止及び無辜の救済を図るためには、弁護側が捜査機関の保管する鑑定資料についてDNA型鑑定を実施できるようにするための制度的な保障が不可欠である。そして、その前提として、捜査機関が収集した鑑定資料を後日、鑑定が実施できるような状態で適正に保管する制度の法制化が必要であるし、これらの鑑定資料の開示を含めた全面的証拠開示制度の実現は喫緊の課題と言える。



そして、当連合会がかねてから提唱している、えん罪原因を究明し、えん罪根絶のための刑事司法の改革を目指す、警察、検察及び裁判所から独立した第三者機関を設置する必要性が一層高まっているといえる。



当連合会は、本判決を契機として、今後とも再審支援活動を一層強化するとともに、えん罪防止のための制度改革の実現に向けて全力を尽くす所存である。

 

2012年(平成24年)11月7日

日本弁護士連合会
会長  山岸 憲司