「社会保障・税共通番号」法案の国会審議にあたっての日弁連コメント

2012年(平成24年)8月8日
日本弁護士連合会


 

「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(略称「マイナンバー法」)案は、民主党、自民党、公明党の3党で大筋合意されたとの報道がなされており、両議院では賛成多数により十分な審議もなく、拙速に成立することが予想される。


この法案は、全ての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号(マイナンバー)を付け、これらの分野の個人データを、情報提供ネットワークシステムを通じて確実に名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(社会保障・税共通番号制度)を創設しようとするものであって、当連合会がその成立に強く反対しているものである。


この法案は、第一に、重大なプライバシー侵害の危険のある制度を創り出す。すなわち、この制度は、個人情報の利活用の推進を優先して、広範な行政及び民間分野において、生涯不変の共通番号を利用させるものであるため、民間においても広く個人の共通番号が認識できるようになり、個人情報が広範に名寄せ・統合(データマッチング)され、プライバシーが丸裸状態になるおそれや「なりすまし」被害が多発するおそれがある。米国や韓国等で「なりすまし」被害が深刻化しているにもかかわらず、これらと同じ制度を構築することは時代に逆行するものである。また、このような事態は国の安全保障上も問題がある。


第二に、政府は同法案の目的について、「正確な所得捕捉」と「税と社会保障一体改革」のために必要であるとしてきたが、この目的自体が破綻している。すなわち、共通番号制を導入しても正確な所得捕捉ができないことは当初から政府が認めていたところである。また、去る6月15日に成立した民主党、自民党、公明党の「税と社会保障一体改革」修正合意により、「社会保障の充実」「公平な税制の実現」という目的や理念が著しく後退したのであるから、一体改革のために共通番号制が必要であるという相関関係は希薄になっている。


第三に、さらに問題なのは、法案が衆議院で審議されようとしている現時点においても、共通番号制導入による費用対効果が未だに明らかにされていないことである。これでは共通番号制は一部官庁と一部企業の利益のためだけの箱物事業になりかねない。


これらの問題点がある上、東日本大震災と福島原発事故のために莫大な費用がかかるこの時期に、壮大な失敗の危険性のある事業を行うための本法案が、真剣な討論がなされないまま、きわめて拙速に成立させられてしまう可能性が高い。これは、国民の負託を受けた国会の審議として極めて不十分である。当連合会は、この法案を成立させることは、我が国の将来に重大な禍根を残すことになるため、同法案に強く反対するものである。


国会においては、以上に指摘した同法案の問題点について、徹底した審議を行った上で、同法案を廃案にすることを、改めて強く求めるものである。