原子力規制委員会委員長・委員の選任基準と選任方法についての会長談話

去る6月20日、原子力規制委員会設置法が成立した。現在、同委員会の委員長と委員を選任し、委員会を発足させるための作業が進行中である。



この組織は、福島第一原子力発電所事故後の原子力安全規制を委ねられ、全国の原発の再稼働の適否や放射性廃棄物の管理処分の方法などについて判断していく組織である。福島第一原発事故によって根底から失われた原子力安全行政への国民の信頼の回復が、新たに選任される委員長・委員の手に委ねられることになる。



原子力規制委員会設置法第7条は、委員長及び委員に、「人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する」ことを求めている。真にこのような要件に合致した者が選任されるためには、それにふさわしい委員長・委員の選任基準と選任方法を定めなければならない。



政府は法律上の欠格要件に加えて、①就任前直近3年間に、原子力事業者等及びその団体の役員、従業者等であった者、②就任前直近3年間に、同一の原子力事業者等から、個人として、一定額以上の報酬等を受領していた者を欠格要件に追加し、さらに、①個人の研究及び所属する研究室等に対する原子力事業者等からの寄附について、寄附者及び寄附金額(就任前直近3年間)、②所属する研究室等を卒業した学生が就職した原子力事業者等の名称及び就職者数(就任前直近3年間)について任命に際して情報公開を求めるとしている。



しかし、これだけでは不十分である。委員長・委員は両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命することとされている。この手続において、候補者の原子力安全に関する過去の主要な言動を国会事務局において収集し、国会に提出した上で、候補者を国会に招致し、その資質と識見に関して時間をかけて質疑を行い、そのプロセスを公開し、さらに、その候補者に対する国民の意見を聴取するべきである。



このようなプロセスを経て、国民の多くが「人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する」と認めた者が委員長・委員に選任されなければ、国民の失われた信頼を取り戻すことなど到底できないであろう。



一部に、委員長には原子物理学専攻であることを求める考えがあるとも伝えられているが、そのような隠された要件を課すことは疑問である。同委員会が、福島原発事故の反省を踏まえて、国家行政組織法第3条に基づく行政委員会(いわゆる3条委員会)として、その職権の独立性が強化された形で設置された経緯から鑑みても、委員長には、その独立性と責任を強く自覚し、原発の再稼働の適否や放射性廃棄物の管理処分の方法について、安全を第1の判断基準として、毅然とした決断を行うことができる資質が何よりも求められる。



したがって、当連合会は、政府に対し、前記指摘を踏まえた公正かつ適正な人選を行うことを求めるものである。

 

2012年(平成24年)7月19日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司