福島県内区域外(自主)避難者への民間賃貸住宅借上げ制度の適用を求める会長声明

民間賃貸住宅借上げ制度は、災害救助法に基づき、受入先都道府県が民間賃貸住宅を借り上げ、被災地からの避難者に対して提供し、その費用を被災都道府県に求償し、最終的に最大9割を国費で負担する仕組みである。福島県では、現在でも県外に6万人以上が避難しているところ、同制度は、低線量被ばくによる健康影響等を懸念して避難を行った避難者の生活基盤の安定にとって欠かせない仕組みとなっている。



現在のところ、福島県外においては、放射線量が比較的高いものの避難区域ではない区域から避難した区域外避難者についても、避難区域から避難した避難者と同様に、民間賃貸住宅借上げ制度を利用することができる。ところが、福島県内においては、同制度を利用することができるのは、避難区域内からの避難者に限られており、避難区域外からの避難者は同制度を利用することができない。



本年6月9日の各紙の報道によれば、福島県は、福島原子力発電所事故に伴う避難区域外から県内の別の地域に避難した住民に民間賃貸住宅借上げ制度(みなし仮設住宅の供与)が適用されていない問題について、現段階では適用は困難であるとの見方を示したとされている。一方、福島県議会は、去る7月4日、借上げ住宅の提供などの支援を受けられるよう政府に措置を求める意見書を全会一致で採択している。



福島県は、県内区域外避難者からの申入れを受けて、現在、厚生労働省との間で、県内区域外避難者への民間賃貸住宅借上げ制度の適用について協議を行っている。ところが、県の市民団体に対する回答によれば、厚生労働省は、東京電力の自主的避難に係る賠償の実施状況も併せて検討したいとし、県内区域外避難者への同制度の適用について慎重な姿勢を見せているとされている。



しかしながら、災害救助法による民間賃貸住宅借上げ制度は、避難者の現在の生活の安定と再建を図るための支援であって、避難者に生じた損害を事後的に回復するための損害賠償制度とは、もとよりその目的を異にし、東京電力による賠償は、同制度の適用を先延ばしにする理由とはならない。東京電力による区域外避難者への実費賠償は、自主的避難等に係る賠償指針(中間指針追補)が示された昨年12月から半年以上を経た現在も、開始時期の見込みすら示されておらず、多くの避難者が経済的に厳しい状況に置かれている。区域外避難者の中には、福島に対する愛着や仕事の都合から、福島県内での移転を選択した者もいる。こうした区域外避難者について、県外に避難した場合に適用される同制度を、県内での避難には適用しないことは、支援のバランスを著しく欠いているといわざるを得ない。



よって、当連合会は、福島県に対し、民間賃貸住宅借上げ制度を福島県内で区域外避難を行った住民についても適用し、国に対し、これに伴う福島県の支出について、災害救助法に基づく国庫負担の対象とするよう求めるものである。

 

2012年(平成24年)7月11日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司