東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律の成立に関する会長声明

本年6月21日、衆議院で「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律案」が可決され、成立した。本法案は、与野党からそれぞれ参議院に提出されていた原子力発電所事故による被害者の支援のための法案が、与野党間の協議により一本化の上、参議院東日本大震災復興特別委員会の委員長提案として参議院本会議に提出され、全会一致で可決され、衆議院に付託されていたものである。



まずは、自ら福島原子力発電所事故の被害を受けながら、その実態を訴え続け、国政を動かした被害者の方々、被害者の支援のために活動してきたNGOの方々、そして本法案の成立のために尽力された与野党の国会議員の方々に、改めて敬意を表するものである。



当連合会においても、昨年12月以降、東京電力株式会社による損害賠償だけでは、被害者の迅速かつ適切な救済が困難であると考えられることから、本件事故が、国の原子力政策の下で発生したことに鑑み、避難した者と危険を感じながら福島に残っている者の双方を含む被害者に対する人道的援助の第一次的な責任は国にあるとの観点に基づき、国による包括的な援護立法の在り方の検討を始め、2月16日付けで「福島の復興再生と福島原発事故被害者の援護のための特別立法制定に関する意見書」を取りまとめ、立法実現のための諸活動を行ってきた。本法律は当連合会の提案を踏まえた立法であり、その成立は福島原子力発電所事故被害者の人間の復興のための第一歩として高く評価できる。



とりわけ、本法律は、本件事故により放出された放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと(第1条)を認めたこと、被害者が被災地に居住するか、避難するか、又は避難した後帰還するかについて、被害者自身の自己決定権を認め、そのいずれを選択した場合であっても適切な支援を受けられることを認めたこと(第2条第2項)、さらに、国がこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的責任を負っていること(第3条)を認めた点において、極めて画期的なものである。法案の審議の過程でも提案者から異なる選択をした被災者の間の心の垣根を乗り超える手立てとなり得るものと説明された。本法律の確実な施行によって、原発事故の被害者の中に居住地や被ばくへの考え方の違いなどによって生み出されている複雑な心の垣根が、少しずつでも取り除かれていくようにと願わずにはいられない。



次に、被害者に対する医療支援の施策について、その医療の内容が本件「事故に係る放射線による被ばくに起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたもの」(第13条第3項)とされている点は文言上は明確とはいえないが、国会審議において提案者から本件事故による放射性物質と生活の激変がもたらしたと思われる疾病、障害については可能な限り支援すべきという説明がなされていることからすれば、事故の恐怖や避難生活を余儀なくされたこと、更には家族が別々に生活せざるを得なくなったことなどにより慣れない生活を強いられたことによるストレス等に起因する精神的疾患や生活習慣病等についても、広く支援の対象とされるべきである。したがって、法の施行に当たっては、このような解釈に基づき運用がなされるべきである。



なお、本法律は、被害者支援の基本法的な位置付けのものであり、具体的な施策については、今後政府の計画や政令等で定められることになる。特に、第8条における「支援対象地域」について、「その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域をいう」とされているが、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告である一般公衆の被ばく限度量である年間1mSvを超える放射線量が検出される地域を「支援対象地域」とすべきである。



当連合会は、本法律が真に実効的な被害者支援の立法となるよう、本法律施行後、国が真摯に被害者や被害自治体の声に耳を傾けながら、直ちに具体的施策を講じるよう強く求めるとともに、当連合会としても、本法律の施行状況を常に注視し、積極的な提言を行うなど、関係者と緊密に連携を取りながら、今後も主体的に活動していきたい。

 

2012年(平成24年)6月21日

日本弁護士連合会
会長  山岸 憲司