名張毒ぶどう酒事件の再審請求人に対する非人道的処遇についての会長声明

名張毒ぶどう酒事件の再審請求人である奥西勝氏は、2012年(平成24年)5月27日に発熱のため拘置所外の病院に救急搬送され、その後、ベットに仰向けになって点滴や酸素吸入等の治療を受けていたが、同月28日に面会した弁護人からの報告によれば、同病院では刑務官4人に囲まれ、常時、その動静を監視されているにもかかわらず、右手に手錠をされ、縄で刑務官につながれていたとのことである。



しかし、刑事被収容者処遇法は、被収容者の人権を尊重しつつ、その状況に応じた適切な処遇をすべき旨を定め(同法1条)、被収容者に対する措置についても、収容の確保等の目的を実現するために必要な限度を超えて被収容者の自由や権利を制限してはならない旨を定めている(同法73条2項)。したがって、被収容者を護送する場合に手錠を使用することが認められている(同法78条1項)としても、被収容者の状況に照らし、具体的な必要もないのに手錠を使用することができないのは当然である。そして、86歳と高齢であり、しかも上記の状態にある奥西氏に逃走や自傷他害等のおそれがないことは明らかであって、奥西氏に対して手錠を用いることは許されない。



自由を奪われた全ての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して取り扱われなければならず(憲法13条、国際人権(自由権)規約10条1項)、非人道的な又は品位を傷つける取扱いを行うことが禁止されている(国際人権(自由権)規約7条、拷問等禁止条約16条1項)。しかし、奥西氏に手錠を使用することは、本来の目的を逸脱し、奥西氏に対して不必要に肉体的、精神的苦痛を与えるものであって、奥西氏の人間としての尊厳を踏みにじる非人道的処遇といわざるを得ない。



なお、名張毒ぶどう酒事件については、2005年(平成17年)4月5日には第7次再審請求の請求審である名古屋高等裁判所刑事第1部が再審開始を決定しており、2012年(平成24年)5月25日に差戻し異議審である名古屋高等裁判所刑事第2部が再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却したものの、同日付け会長声明で述べたとおり、奥西氏が犯人であることに重大な疑いが生じていることは明らかである。



以上、名古屋拘置所が、入院先で病臥している奥西氏に対し、手錠を使用しかつこれを継続したことは、憲法、国際人権(自由権)規約、拷問等禁止条約及び刑事被収容者処遇法に違反する著しい人権侵害行為である。



当連合会は、名古屋拘置所に対し、今後、このような人権侵害行為が繰り返されることがないように強く求める。

 

2012年(平成24年)6月12日

日本弁護士連合会
 会長 山岸 憲司