東日本大震災からの復興の中で迎えた憲法記念日に当たっての会長談話

本日、日本国憲法が施行されてから65年目の憲法記念日を迎えた。



当連合会は、個人の尊重のために最高法規として権力を制限する立憲主義の理念と国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義の基本原理を、憲法の理念と基本原理として将来にわたり堅持し尊重すべきものであると繰り返し確認してきた。近年においても、「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」(鳥取宣言 2005年)、「平和的生存権および日本国憲法9条の今日的意義を確認する宣言」(富山宣言 2008年)を発表している。



ところで、東日本大震災から1年以上が経過したが、復興への道のりは険しく、とりわけ東京電力福島第一原子力発電所事故による被害者・避難者は生活の基盤を根こそぎ奪われ、国が対処すべき多くの問題を抱えている。このような現状は、憲法11条の基本的人権、13条の幸福追求権、25条の生存権等が侵害されているといわなければならない。加えて、政府の原発事故に関する情報開示の遅れは、国民主権の基礎となる国民の知る権利をないがしろにするものである。被災者の支援及び被災地の復旧・復興並びに原発事故被害者の救済に当たっては、基本的人権を回復する「人間の復興」こそが基本とされる必要があり、今こそ憲法が活かされなければならない。



ところが、震災等をきっかけとして、憲法を活かすこととは逆の動きが活発化している。既に様々な改憲案が発表されているが、これらには上記の憲法の理念と基本原理に照らして大きな問題がある。



特に、非常事態への対処を理由に内閣総理大臣に権力を集中させ、国民の権利と自由を広範囲にわたり制限する緊急権条項を憲法に明記することを求める動きには懸念がある。立憲主義は権力分立と人権保障を本質とするものであり、こうした緊急権条項はときの政権によって濫用され、人間の尊厳をないがしろにしてきた歴史があるからである。



また、憲法改正要件の緩和を求める動きもある。こうした動きは、改正要件を厳格にして、多数派による少数派の人権侵害を防ぐという憲法の趣旨に反する。



さらに、大きな問題は、無限定の自衛権行使や自衛軍の保持を明示したり、交戦権否認条項を削除するなど、憲法第二章の「戦争の放棄」を骨抜きにする動きである。これでは、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という恒久平和主義の3つの柱は全て取り去られてしまい、戦争への歯止めはもちろん、国際社会で積極的に軍縮・軍備撤廃を推進すべき我が国の責務を放棄するに等しい。



当連合会は、憲法の基本的人権尊重原理に基づく東日本大震災・原発事故の被災者・被害者の権利救済と被災地の復旧・復興を求めるとともに、こうした改憲の動きを見過ごすことなく、立憲主義や恒久平和主義などの憲法の理念と基本原理がさらに定着することを目指すものである。

 

2012年(平成24年)5月3日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児