秘密取扱者適格性確認制度に関する会長声明

2012年4月10日、内閣総理大臣は、参議院議長に対し、秘密取扱者適格性確認制度に関する質問に対する答弁書(以下「答弁書」という。)を送付した。秘密取扱者適格性確認制度(以下「適格性確認制度」という。)は、2007年8月9日に策定された「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」において定められ、2009年4月1日から実施されている制度であり、国の行政機関による特定の秘密(以下「特別管理秘密」という。)について、適格性を確認した職員に取り扱わせることとしている。


上記適格性確認制度は、現在、政府が、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が取りまとめた「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という。)を踏まえ、秘密保全法制の一環として導入を検討している適性評価制度に酷似した内容の制度であるから、その運用実態を明らかにすることは、秘密保全法制における適性評価制度の是非及びその内容を検討する上で必要不可欠である。


適格性確認制度については、従前、その運用の実態が全く明らかにされていなかったが、答弁書によってその一端が明らかになった。
 

答弁書によれば、特別管理秘密を取り扱う適格性を有している国の行政機関の職員は2011年末時点で約5万3000人に上っている。一方、不適格と判断された者の人数について、適格性確認制度の具体的運用に関わることであり、情報保全に支障を及ぼすおそれがあるとして回答を差し控えるとしている。その適格性の確認については、必ずしも本人の同意を得て行っているものではないとされている。


政府は、不適格と判断された者の人数を回答しない理由として、適格性確認制度の具体的運用に関わることであるためとしているが、人数が公になることが直ちに制度の運用に重大な支障を生じさせることは考えられず、また、何らかの支障があったとしても、重大な人権侵害を生じさせるおそれのある制度の導入の是非及びその範囲を検討する必要があるのであるから、公表すべきは当然である。
また、適格性確認制度における調査事項は明らかにされていないが、報告書によれば、適性評価制度における調査事項は非常に広範に及んでおり、信用状態や精神の問題に係る通院歴等といったセンシティブ情報も含まれている。現在の運用がこれに類似するものであるとすれば、本人の同意を得ていない適格性確認制度の運用は、対象者のプライバシーを侵害している可能性が極めて高いといわざるを得ない。
 

しかも、報告書によれば、適性評価制度における調査事項には「我が国の利益を害する活動への関与」といった抽象的な事項が含まれており、行政機関の恣意的判断によって思想・信条等を理由とする差別的な取扱いがされるおそれがある。現在の運用でも同様の調査事項があるとすれば、恣意的な運用が行われている可能性が高い。


以上のことから、現在の適格性確認制度の運用はプライバシー侵害のおそれが高いものであり、また、不適格と判断された者の人数すら明らかにしない答弁書の内容は、適格性確認制度に関する有意義な検討や議論を不可能とするものである。


よって、当連合会は、政府に対し、本人の同意を得ずに実施されている適格性の確認を直ちに中止するとともに、適格性確認制度に関する有意義な検討や議論を可能にするため、不適格と判断された者の人数、調査事項、その方法及び範囲等、その具体的な運用を明らかにすることを求める。
 

2012年(平成24年)4月27日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児