生活保護における老齢加算廃止に関する最高裁判決に関する会長談話
最高裁判所第三小法廷は、本年2月28日、都内在住の70歳以上の生活保護利用者が、その居住する自治体に対し、生活保護の老齢加算廃止を内容とする保護変更決定処分の取消しを求めた訴訟において、原告側の上告を棄却し、原審どおり、原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。
老齢加算は、70歳以上の生活保護利用者に対し、加齢に伴う特有の生活需要を満たすために1960年から実施されたものであるが、厚生労働大臣は、2004年度から段階的な廃止を決定し、2006年度には全廃されるに至った。その結果、高齢の被保護世帯は、約20%もの生活扶助費を削減されることとなったのである。
しかし、老齢加算は、中央社会福祉審議会生活保護専門分科会における検証の結果、2回にわたりその必要性が肯定されているものであるし、創設以来40年にわたり、高齢の被保護世帯の健康で文化的な最低限度の生活の維持のために不可欠なものとなっていたものである。
今、格差と貧困が広がる中、最後のセーフティーネットとして生活保護制度が果たす役割の重要性については論をまたないが、改正最低賃金法には「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」と明記されるなど、生活保護制度は他の諸制度、諸施策と連動しており、生活保護基準の切下げは、生活保護受給者のみならず国民生活全般に影響を及ぼす。本件訴訟は、政府の生活保護基準切下げ政策の転換を図り、国民の生存権を保障する上で、重要な意義を有するものである。
本判決は、第一に、生活保護基準以下の生活を強いられている国民(とりわけ高齢者)が存在する事実に対して、この貧困を解決するのではなく、この貧困状態に合わせて生活保護基準を切り下げ、格差と貧困を拡大する政府の不当な政策を是認したものであり、第二に、老齢加算が果たしてきた重要な役割を何ら理解することなく、老齢加算が廃止されることで高齢保護受給者の生存権を侵害している実態から目を背け、行政の違憲・違法な措置を追認した不当なものである。
人権の最後の砦となるべき最高裁判所が、このような判決を下すことは、その職責を放棄したものといわざるを得ず、深い悲しみと憤りを禁じ得ない。
当連合会は、2006年の第49回人権擁護大会において、貧困の連鎖を断ち切り、全ての人の尊厳に値する生存を実現するために生活保護の切下げを止めることを求め、また、2008年11月18日付け「生活保護法改正要綱案」では、法改正に当たり民主的コントロールを受けないまま削減・廃止されてきた老齢加算及び母子加算を削減・廃止前の内容で復活させるべきであることを提言した。
当連合会は、厚生労働大臣においては、本判決に拘泥することなく、いまだ置き去りになっている高齢者の貧困対策の見地から、2009年12月に復活された母子加算と同様に老齢加算を速やかに復活させることを求める。
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児