少年の実名報道を受けての会長声明

2012年(平成24年)2月20日、最高裁判所が、いわゆる光市母子殺害事件について、犯行時少年であった被告人に対して死刑判決を言い渡したことを受けて、一部の報道機関は被告人の実名を報道したり、顔写真を掲載したりした。



これは、少年時の犯行について氏名、年齢等本人と推知することができるような記事又は写真の報道を禁止した少年法61条に明らかに反する事態であって、極めて遺憾である。



凶悪重大な少年事件の背景には家庭での虐待等の不適切養育や学校・地域などをめぐる複雑な要因が存在し、少年個人のみの責任に帰する厳罰主義は妥当ではなく、少年の成長発達支援が保障されるべきであることから、少年法1条は「健全育成」の理念を掲げ、同法61条は、この理念に基づき、少年の更生・社会復帰を阻害することになる実名報道を、事件の重大性等に関わりなく一律に禁止している。



国際的に見ても、子どもの権利条約40条2項は、刑法を犯したとされる子どもに対する手続の全ての段階における子どものプライバシーの尊重を保障し、少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)8条も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結び付き得るいかなる情報も公表してはならないとしている。



そして、上記の理念は、少年が成年に達したり、死刑判決が言い渡されるなどしても変わるものではない。



当連合会は、2011年(平成23年)10月7日の人権擁護大会において、犯罪時20歳未満の少年に対する死刑の適用は速やかに廃止することを求めているところであり(「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」)、そのような法律改正が実現すれば、少年は社会復帰することになる。



現行法下では、死刑判決が確定した場合には少年の成長発達は問題にならないとする見解もあるが、再審や恩赦制度があることから、少年が社会に復帰する可能性は残っている。さらに、少年法61条の精神は、憲法13条から導かれるものであり、少年の個人としての尊厳及び幸福追求権は、少年に死刑が確定した後も失われるものではない(当連合会2007年11月21日付け「少年事件の実名・顔写真報道に関する意見書」参照)。



もとより、憲法21条が保障する表現の自由の重要性は改めていうまでもないが、私人である少年の実名が、報道に不可欠な要素とはいえない。事件の背景・要因を報道することこそ、同種事件の再発を防止するために不可欠なことであり、むしろ実名を報道することで、模倣による少年非行を誘発する危険性もないわけではない。



当連合会は、2011年(平成23年)3月10日に、いわゆる長良川リンチ殺傷事件の死刑判決を受けた実名報道に関しても、報道機関に対し、以後少年法61条を遵守するよう要請した。それにも関わらず、今回もまた同じ事態が繰り返されたことは極めて遺憾である。



当連合会は、改めて報道機関に対し、今後同様の実名報道、写真掲載等がなされることがないよう、強く要望する。


2012年(平成24年)2月24日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児