「社会保障・税共通番号制」法案の閣議決定及び国会提出に対する会長声明

去る2月14日、政府は、いわゆる「社会保障・税共通番号制」に係る法律(正式名称「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、略称「マイナンバー法」)案を閣議決定し、国会に提出した。


この法案は、全ての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号(マイナンバー)を付けて、これらの分野の個人データを、情報提供ネットワークシステムを通じて確実に名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(社会保障・税共通番号制度)を創設しようとするものである。


当連合会は、この共通番号制度に対して、昨年7月29日付け「『社会保障・税番号制大綱』に関する意見書」において、①共通番号制の具体的な必要性や利用目的が、全く明らかにされていない上に、費用の概算も効果の試算も公表されていないため、本制度によるプライバシー権などに対するリスク受忍の当否、費用対効果の妥当性等は検討のしようがないこと、②この制度が、個人情報の利活用の推進を優先し、プライバシー権(自己情報コントロール権)の核心的内容である、情報主体の「事前の同意」による情報コントロール権の保障をないがしろにしていること、③生涯不変を原則とする、目に見える形で公開される共通番号が、納税者番号として個人から事業者、そして事業者から税務当局への流れ(民→民→官)の中で広く利用されるのみならず、更に広い業務において同様の利用がなされることに伴い、いわゆる「なりすまし」などのプライバシー侵害が多発する可能性が予想されるにもかかわらず、そのリスクを軽視しており、示された対策も極めて抽象的であり、かつ不十分であること等の問題点を指摘し、その抜本的見直しを要求してきた。


また、政府の意識調査によれば、共通番号制の内容は国民にほとんど理解されておらず、各省庁間においても共通番号制について十分な共通認識に至っているか疑問のあるところである。


しかるに、政府は、これらの問題点について抜本的な再検討を行うことなく、また、この制度に関する内閣官房主催の番号制度全国リレーシンポジウムにおいても制度に関する十分な説明も行うことなく、法案を閣議決定し、国会提出に至っている。


このように、基本的人権のうちでも人格的尊厳や国民の自己決定権に影響を与えるものとして、最も枢要なものの一つであるプライバシー権を危殆に瀕せしむる制度を拙速に法律化することは、将来に重大な禍根を残すことになる。


よって、当連合会は、同法案に強く反対するものである。

2012年(平成24年)2月15日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児