原子力損害賠償紛争解決センター申立第1号事件和解案に対する東京電力の回答に関する会長談話

本年1月26日、福島県大熊町から東京都内に避難している男性が原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)に昨年9月1日に申立てを行った第1号事件について、昨年12月27日、センターの仲介委員が示していた和解案に対して、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)が回答を行った。



東京電力の回答では、仲介委員の示した和解案のうち、財産価値の減少等に対する賠償等、一部については受け入れる一方で、中間指針で目安として示された金額を超える慰謝料の増額及び仮払い補償金を本件和解時に精算しないとする点を拒絶し、さらにはセンターがあえて設定しなかった清算条項の明記などを求めている。



本件和解案の内容についての評価は、個別事件であることから当連合会としての評価は差し控えるものの、東京電力の行った回答は、下記のとおり重大な問題を含んでいる。



最大の問題は、東京電力は、原子力損害賠償支援機構と共同で昨年10月28日「特別事業計画」を申請し、11月4日に政府はこれを認定しているが、本計画は、原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施を目的とする東京電力への政府資金援助の条件とされ、東京電力は、本計画に盛り込まれた諸事項を遵守し、確実に実施する義務を負っている。本計画で東京電力は「5つのお約束」を掲げ、その中で「和解仲介案の尊重」をうたっている。



にもかかわらず、東京電力は、和解案の一部について受諾する姿勢を示しながら、慰謝料や仮払い補償金の精算など被害者にとって重要な点について、これを拒絶したことは、政府及び国民に対する約束を守っていないといわざるを得ない。



また、原子力損害賠償紛争審査会が定めた中間指針を超えて提示された慰謝料についても、中間指針の基準を超えていることを理由にその支払を拒絶しているが、その中間指針自体において、「本件事故による原子力損害の当面の全体像を示すものである。この中間指針で示した損害の範囲に関する考え方が、今後、被害者と東京電力株式会社との間における円滑な話し合いと合意形成に寄与することが望まれるとともに、中間指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要である。東京電力株式会社に対しては、中間指針で明記された損害についてはもちろん、明記されなかった原子力損害も含め、多数の被害者への賠償が可能となるような体制を早急に整えた上で、迅速、公平かつ適正な賠償を行うことを期待する。」と明記されているのである。



このような東京電力の対応は、原子力損害賠償紛争審査会及びその下に設置された原子力損害賠償紛争解決センターという原子力損害賠償解決制度そのものの意義を十分に理解しないものであって極めて遺憾である。

当連合会は、東京電力に対し、仲介委員の示した和解案を尊重し、以上のような条項を受諾することを求めるとともに、政府に対しても、東京電力に対してその姿勢を改めるよう、指導、監督を徹底することを求める。

 

2012年(平成24年)1月27日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児