君が代斉唱時の不起立等を理由とした懲戒処分取消等請求訴訟の最高裁判決に対する会長声明

本年1月16日、最高裁判所第一小法廷は、東京都内の教諭ら計約170人が、入学式などにおける国歌斉唱の際に起立斉唱あるいは伴奏を命じる校長の職務命令に従わなかったことを理由にされた停職、減給ないし戒告の懲戒処分の取消し及び国家賠償を求めた計3件の訴訟の上告審判決で、上記職務命令は憲法19条に違反しないことを前提としつつ、「減給や停職には過去の処分歴や本人の態度に照らして慎重な考慮が必要」との初判断を示した上で、停職の2人のうち1人と減給の1人の処分を取り消し、一方で「学校の規律の見地から重過ぎない範囲での懲戒処分は裁量権の範囲内」とも判断し、戒告を受けた教諭らの処分を取り消した2審判決を破棄し、逆転敗訴とした。

 

これまで当連合会は、君が代について、大日本帝国憲法下の歴史的経緯に照らし、君が代の起立・斉唱・伴奏に抵抗があると考える国民が少なからず存在しており、こうした考え方も憲法19条により憲法上の保護を受けるものと解されることを指摘し、君が代の起立・斉唱・伴奏行為は日の丸・君が代に対する敬意の表明をその不可分の目的とするものであるから卒業式等においてこれらを職務命令で強制することは思想・良心の自由を侵害するものであると重ねて表明してきた(平成23年6月10日付け会長声明等)。

 

したがって、今回の判決が戒告処分を容認した点は強く批判されるべきものであるが、過去の不起立などによる処分の累積で停職、減給とされた合計2人について「処分は重過ぎて社会観念上著しく妥当性を欠く」と取り消した点は、注目されるべきである。すなわち、本判決は、不起立等の行為が教員個人の歴史観ないし世界観等に由来するものにとどまり、式典の積極的な妨害に及ばない場合は、戒告処分が累積してもより重い減給以上の処分を選択するのは違法であるとの判断を示したものであり、君が代不起立に対する処分の濫用に一定の歯止めをかけたものと評価し得る。

 

この点について、本判決に補足意見を付した櫻井龍子裁判官は、起立斉唱することに自らの歴史観・世界観との間で強い葛藤を感じる職員が、式典の度に不起立を繰り返すことで処分が加重され不利益が増していくと、「自らの信条に忠実であればあるほど心理的に追い込まれ、上記の不利益の増大を受忍するか、自らの信条を捨てるかの選択を迫られる状態に置かれる」として、このように過酷な結果を職員個人にもたらす懲戒処分の加重量定は法の許容する懲戒権の範囲を逸脱すると厳しく批判している。

 

また、反対意見を述べた宮川光治裁判官は、本件職務命令が憲法19条に違反するとの理由に加え、懲戒処分の裁量審査について、戒告処分であっても勤勉手当の減額、退職金や年金支給額への影響等の実質的な不利益を受けること、他の処分実績との比較でも過剰に過ぎ比例原則に反することを指摘し、たとえ戒告処分であっても懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱すると明快に述べている。

 

以上の補足意見と反対意見の趣旨からも、本判決は、東京都及び立川市公立学校の教職員に対する国歌斉唱時の起立・斉唱・伴奏の強制や、大阪府で昨年来続いている教職員に国歌起立斉唱を強制する服務規律条例の制定や教育基本条例案による懲戒分限基準の策定への厳しい警告となるものといえる。

 

当連合会は、これまでの関連する声明を踏まえ、改めて、東京都、立川市及び各教育委員会を含め、広く教育行政担当者に対し、教職員に君が代斉唱の際の起立・斉唱・伴奏を含め国旗・国歌を強制することのないよう強く要請するとともに、あわせて、大阪府及び大阪市の各地方議会に対し、君が代不起立に対し分限免職を可能とする教育基本条例を制定しないよう求めるものである。

 

2012年(平成24年)1月19日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児