原子炉等規制法改正案の骨子に対する会長声明

政府は、原子力発電所を運転開始から40年で原則廃炉とし、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「福島原発事故」という。)のような過酷事故(シビアアクシデント)対策を事業者に義務付け、既存の原子力発電所については、常に最新の安全技術や知識を反映させるよう事業者に義務付ける(バックフィット制度)ことなどを盛り込んだ原子炉等規制法改正案の骨子を発表した。



当連合会は、かねてから、原子力発電所の新増設の停止と、既存の原子力発電所の段階的な廃止などを求めてきたところ、2011年(平成23年)7月15日付「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」において、さらにこれを具体化し、廃止に向けての道筋を以下のとおり提言した。



(1) 原子力発電所の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め、再処理工場、高速増殖炉などの核燃料サイクル施設は直ちに廃止する。



(2) 既設の原子力発電所のうち、①福島第一及び第二原子力発電所、②敷地付近で大地震が発生することが予見されるもの、③運転開始後30年を経過したものは、直ちに廃止する。



(3) 上記以外の原子力発電所は、10年以内のできるだけ早い時期に全て廃止する。廃止するまでの間は、安全基準について国民的議論を尽くし、その安全基準に適合しない限り運転(停止中の原子力発電所の再起動を含む。)は認められない。



今回の改正案は、運転開始後30年未満の原発について今後10年以上の運転を認めることになる点で当連合会の上記提言(3)と相容れないが、これまで原子力発電所の運転期間を制限した法律がなかったことに照らせば、政府が運転開始から40年で原則廃炉とすることを示したことは、10年の期間の違いはあるものの、上記(2)③に挙げた老朽化した原子力発電所の廃止を実現するものであって、一定の評価ができるものである。



また、福島原発事故のような過酷事故(シビアアクシデント)対策はこれまで事業者の自主的取組に委ねられ、法的な規制がされていなかったところ、これを法的に義務付けることにしたこと、最新の安全技術や知識を反映させるよう事業者に義務付ける(バックフィット制度)ことにし、これを満たせない場合には運転停止命令が出せるようにしたことも、遅きに失したとはいえ、当然の措置と評価できる。



しかし、福島原発事故は、安全確保策に限界があることを明らかにしたものであり、政府はまず原子力発電所に依存しない社会を目指すという基本方針を明示して、上記改正はその実現の過程における安全確保策であることを示すべきである。



そして、40年の廃炉期間についていえば、原子力発電所の設計寿命は当初30年間とされ、その後の経験上からも30年間もすると劣化が見られた。そのため、現在では30年目に「高経年化対策」と称して老朽化原子力発電所対策を施して稼働期間を延長しているのであるから、安全確保策として期限を設定するのであれば40年ではなく30年とすべきである。また、改正案は、期限を経過した原子力発電所についても例外的に運転を認めているが、それでは期限を区切った意味が失われてしまう。よって、このような例外規定は絶対に設けるべきではない。



もとより、上記のその余の当連合会の提言については、いまだ実現されていないところ、特に(1)に指摘した原子力発電所の新増設と核燃料サイクルがいまだ中止されていないことは、極めて遺憾である。



また、過酷事故対策は、想定した範囲内の事故経過に対し、想定した対策が有効に働くことを前提にしたもので、限定的な対策である。



福島原発事故の原因については、昨年12月に、東京電力株式会社の福島原子力事故調査委員会及び政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会から、それぞれ中間報告が提出されたところであるが、これらにおいて事故原因が究明されたとはいい難く、また、これらとは別に、新たに国会に設けられた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会はその活動を始めたばかりであり、今後、更なる事故原因の究明が期待されている。現在、原子力安全委員会で安全設計審査指針、耐震設計審査指針、防災指針の見直しがされているが、これらの見直しのためには、事故原因の究明が必要であることはいうまでもない。



上記のとおり今回の事故原因の解明もいまだできておらず、それを踏まえた改訂指針に基づく安全性の確認もなされていないのであるから、上記過酷事故対策が法的義務とされたことをもって、停止中の原子力発電所の運転再開が認められるものではないことを付言する。

 

2012年(平成24年)1月13日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児