沖縄駐留米軍ヘリパッド建設地区住民相手に仮処分を申し立てた国に対し表現の自由の尊重を求める会長談話

2008年11月25日、国は、沖縄駐留米軍ヘリパッドの建設工事に反対する沖縄県国頭郡東村高江地区住民らが、通路入口付近等で国の通行等を妨害し、妨害するおそれがあるとして、住民15名に対し、裁判所に通行妨害禁止仮処分を申し立てた(以下「本件申立て」という。)。

 

2009年12月11日、那覇地方裁判所は、国の本件申立てに対し、国自らが申立てを取り下げた7歳の女児を除き、最終的に相手方とされた14名中2名に対してのみ仮処分決定を行い、12名に対し却下決定を下した(なお、仮処分決定を受けた2名に対する通行妨害禁止訴訟は、本年12月14日に結審し、2012年3月14日に判決言渡しを予定している。また、上記建設工事は現在もなお継続している。)。

 

これに対し、本年12月6日、九州弁護士会連合会は、本件申立行為が住民の表現の自由を侵害するものとして、国に対し、国民を相手に司法手続をとる際には、合理的根拠に基づいて事前に十分な調査・検討を行い、かつ、国民の表現活動に対する必要以上の萎縮効果を招来することのないよう勧告した。

 

本件申立てで国は、住民らの座込み、インターネット上の意見表明、国への工事中止の申入れ、マス・メディアを利用した意見表明など、あらゆる表現活動を詳細に指摘しているが、裁判所はこれらが住民らの政治的な信条に基づく行為として許容され、かつ、尊重されるべき限度を超えたものとは認められないとしている。

 

また、国は、本件申立てにおける相手方として、県内外から集結した多数の反対者の中から、高江区住民をほぼ集中的に選定し、しかも、夫婦や7歳の女児をも含むものであった。また、申立ての資料として人違いの写真が提出され、結果的に当事者のほとんどが却下されている等の事情に照らせば、国は、申立てをするに際し、現に通行妨害を行っている者か否か等を判断する十分な事前の検討作業を行っておらず、反対の意見表明をした者を相手方として選定したと理解する方が自然である。

 

本件申立ては、相手方とされた住民に応訴の負担を強い、広範な行為を対象とすることによって、住民の政治的表現活動に重大な萎縮効果が生じ、事前抑制をしたと同様の結果を招来している。

 

以上の次第で、本件申立ては、国が実体的権利の実現ないし紛争の解決を真摯に目的とするものではなく、訴訟上又は訴訟外において住民に有形・無形の不利益負担を与えることにより、住民運動全体を抑制しようという不当な目的が疑われる。

 

表現の自由は、民主主義社会の死命を制する重要な人権であり、自由で民主的な社会は自由な討論と民主的な合意形成によって成立する。とりわけ政治的意思表明に対する国家権力の介入、干渉は表現の自由の保障一般に対する重大な危機である(当連合会2009年11月6日付け「表現の自由を確立する宣言」)。また、これら意見表明が基本的人権保障の礎となる平和的生存権にかかわる場合、かかる意見表明は、より尊重される(当連合会2008年10月3日付け「平和的生存権および日本国憲法9条の今日的意義を確認する宣言」)。

 

民主主義社会における表現の自由は、ひとたび失われれば、その回復は至難となる繊細なものである。それゆえに、内在的制約はあるものの、これを制約する国の行為は、国民の表現活動に対する必要以上の萎縮効果を招かないよう十分な配慮をしなければならない。

 

本件申立てのような仮処分は、単に本件のみならず、今後の市民による政治的表現活動に重大な影響を及ぼすおそれがある。

 

そこで、当連合会は、国に対し、国民を相手に司法手続をとる際には、国民の表現活動を封ずる結果を招かないように十分に配慮し、表現の自由を尊重するよう求めるものである。

 

2011年(平成23年)12月15日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児