東日本大震災等の被災者への「法的支援事業」特別措置法の制定を求める会長声明

本年3月11日に発生した東日本大震災の被災地において、家が流され、二重ローンに苦しむ人、就業先から解雇された人、借金の相続に悩む人、新たな相隣関係に悩む人など様々な法的問題を抱えた被災者が生活している。さらに原子力発電所事故被害者の法的ニーズは、20万件以上にも達すると想定されている。

 

当連合会は、震災直後から各地の弁護士会、弁護士会連合会、日本司法支援センター(法テラス)と協力をしながら、被災地における法的ニーズに応えるべく活動を行ってきた。すでに法律相談は3万4千件を超えている。

 

その中で、総合法律支援法に基づく被災地での法的支援には、大きな限界があることが判明した。

 

総合法律支援法は、裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にするとともに、弁護士、司法書士等のサービスをより身近に受けられるようにするための総合的な支援の実施などについて定めている。

 

そして同法は、資力の乏しい者にも民事裁判等手続(裁判所における民事事件、家事事件又は行政事件に関する手続をいう。)の利用をより容易にする民事法律扶助事業を一つの中核の事業と定めている。民事法律扶助事業においては、利用のための資力要件が課され、支援の対象となる手続も裁判所における民事裁判等手続に限定されている。

 

しかし、震災、津波、原発事故の被災地において、法律問題を抱えた人に対して、資力の有無を申告させ確認することは、被災者の苦しみへの配慮を欠くことになりかねない。現に、三陸沿岸の市役所の担当者からは、相談に来られる方に資力要件を尋ねるような法律相談会であればやらないでほしいとも言われている。また、例えば一定額の地震保険金等が支払われていると資力があると認定され、民事法律扶助相談が受けられないという事態も生じている。

 

今回の東日本大震災の被災地においては、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」、原子力損害賠償紛争解決センターといった、裁判外の法的問題の解決手続が作られているが、こうした手続の援助を民事法律扶助事業では正面から認めて来なかった。このような手続についてもその利用を促進することが、さらに被災地の法的問題の解決に資することになる。

 

以上のことから、当連合会は、未曾有のニーズに応えるべく、東日本大震災等の被災者支援のため、(1)資力で被災者を選別しない法的支援事業の創設、(2)民事裁判に限定されない柔軟な支援の実現、などを内容とする「法的支援事業」特別措置法の制定を求めてきた。国会においても被災地における法的支援の重要性を踏まえ、すでに閉会した第179回臨時国会での議員立法による成立を目指してきたが、時間的制約などから成立には至らなかった。

 

来年早々に招集が予定される次期通常国会においては、その冒頭ないし早い時期に本特別措置法が制定され、一日も早く被災地において、ニーズに応じた法的支援が実施できることを求めるものである。

 

2011年(平成23年)12月14日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児