災害救助法の運用に基づく民間賃貸住宅借上げ制度の新規受入継続を求める会長声明
本年12月2日、3日の各紙の報道によれば、福島県は、東日本大震災・福島原子力発電所事故による避難者のための民間賃貸住宅の借上げ制度について、各都道府県に対し、12月末で新規受入れを打ち切るよう要請したとされている。
同制度は、災害救助法を弾力的に運用して、受入先都道府県が民間賃貸住宅を借り上げ、被災地からの避難者に対して提供し、その費用を福島県に求償し、最終的にそのほとんどを国費で負担する仕組みである。福島県では、警戒区域や計画的避難準備区域等から約3万人が県外(その他約7万人が県内)に避難しているほか、これら避難指示等がなされていない区域からも、低線量被ばくによる健康影響等を懸念して約2万7000人が県外(その他約2万3500人が県内)に避難している(文部科学省調べ)。こうした避難者にとって住居の確保が大きな課題であることはいうまでもなく、民間賃貸住宅借上げ制度は、避難者の生活基盤の安定にとって欠かせない仕組みである。報道によれば、現在同制度を利用して福島県から県外に避難している避難者は2万7000人に上る。
報道によれば、福島県は、同制度による新規受入れを打ち切る理由として、災害救助法に基づく緊急措置で、恒常的な施策でない、東京電力福島第一原子力発電所の「ステップ2」(冷温停止状態)の年内達成が見込まれるなどを挙げている。
しかし、災害救助法に基づく仮設住宅及び民間賃貸住宅借上げは、運用では少なくとも災害から2年間提供可能であり、むしろ期間延長を可能とすべきであることは、7月29日付け当連合会「仮設住宅の改善に関する意見書」記載のとおりである。また、福島第一原子力発電所が政府のいうように冷温停止状態に達したとしても、現在でも同原子力発電所からの放射性物質の放出は続いており、また低線量被ばくによる健康影響を懸念して避難することに合理性が認められることも、当連合会がこれまでの各意見書・会長声明において繰り返し述べてきたとおりである。
特に、政府による避難指示等が出ていない区域においては、(1)子どもの年度替わりである3月の避難を検討している父母がいること、(2)原子力損害賠償紛争審査会において区域外避難(自主的避難)に関する賠償の指針が未だ議論中であり、経済的な理由から避難を決断できない世帯があることなどから、今後避難を開始する住民が相当数いるものと考えられる。民間賃貸住宅借上げ制度の新規受入中止は、これら新規避難者の生活再建を著しく困難にするものであり、時期尚早であるといわざるを得ない。
ついては、福島県は、民間賃貸住宅借上げ制度の新規受入れ停止要請を撤回し、今後も同制度による受入れを行うよう、各都道府県に周知すべきである。さらに、同制度による支出が福島県の財政負担とならないよう、厚生労働省も、民間賃貸住宅借上げ制度に基づく支出について、今後も災害救助法に基づき国庫負担の対象となることを、福島県に対して明示すべきである。
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児